| 2025年12月 恒星間天体・アトラス彗星 |
![]() アトラス彗星 3I/ATLAS 2025.12.20. 中央の小さな拡散した姿の天体がアトラス彗星 |
| アトラス彗星(3I/ATLAS)と命名されたその天体が発見されたのは2025年7月1日のこと。発見したのはハワイ大学の小惑星地球衝突最終警報システム
(ATLAS)である。最近、このシステムは大活躍で、空にはアトラス彗星と名前が付いたものがいくつもあって、「アトラス彗星」の名前だけでは区別がつかず、符号を確認しなければならないような事態になっている。 アトラス彗星(3I/ATLAS)はオウムアムア (1I/’Oumuamua) とボリソフ彗星 (2I/Borisov)に次いで史上3番目に発見された太陽系以外の場所からやってきた恒星間天体である。 通常、恒星以外で我々が目にする天体である惑星や小惑星や彗星などは、すべてが太陽の重力の影響を受け、“太陽に支配されている”と言ってもいい。 ところが、これらの恒星間天体は、彗星や小惑星のような姿をしていながら、ここに来るまで太陽の影響を受けることなく、宇宙空間を動き続けてきたのだ。どこかの恒星系に所属するわけでもなく、銀河系の中をさまよい続け、たまたま太陽の傍を通りかかったという存在である。もちろん、太陽に近づいたときにはその重力によって軌道はずいぶんと変化し、進行方向は大きく変わるのだけれども。 最初に発見された恒星間天体のオウムアムアは2017年、次のポリソフ彗星が2019年。これが3例目とはいえ、人類が望遠鏡を発明したのは1500年代のころだというから、そして肉眼では見えないような彗星や小惑星をコンスタントに発見できるようになったのは本当につい最近のことだから、地球誕生から45億年の間にはたくさんのこんな天体が太陽の近くを通り過ぎて行ったのかもしれない。 アトラス彗星が太陽に最接近したのは2025年10月29日。太陽に2億300万kmまで接近し、その巨大な重力に捉えられることなく、太陽から遠ざかっている。 そして、2025年12月19日、地球に最接近する日がやってきた。こんな珍しい天体を見過ごすわけにはいかない。6年前のボリソフ彗星のときは何度もトライして、撮影した本人しかわからないような淡い姿を捉えたのが精一杯だった。そのときのボリソフ彗星はおよそ15等星でしかなかった。 地球最接近の日のアトラス彗星の予想光度は、「天文ガイド」によれば11.4等。アストロアーツによれば13.7等。いずれにしても、空がクリアで月明りがなければ十分捉えられるはずだ。もちろん眼視ではなく、カメラの受光素子が、であるけれど。 計算された予想位置を星図に書き込んでみる。この日の彗星はしし座とろくぶんぎ座の境界あたりにいるようだ。星座早見盤で確認すると22時ころには東の空に昇ってくることがわかる。ところが、自宅からは周囲の木に邪魔されて、東の空を見ることができない。アトラス彗星がいるあたりが見えてくるのは明け方になってからだ。 選択肢は2つ。望遠鏡を持って東の空が見える場所へ出かけるか、明け方まで待つか。 宵の時間帯、空にあるもう一つのアトラス彗星(C/2025K1)の撮影ができた。この彗星も興味深い対象で、核が分裂し尾を引く姿でアンドロメダ座にあった。 空の状態はなかなか良い。天気予報でもしばらくの間この良い空が続くようだ。明け方まで待っても大丈夫だろう…。
午前3時。空は変わらずクリアな星空だった。宵のころよりもさらに暗い空に変わっている。夜空は人間活動が一番少ない薄明前のころが一番暗いのだろう。 しし座が空高く昇っている。アトラス彗星がいるあたりも林の上に出てきそうだ。 カメラをセットした望遠鏡を彗星の位置へ導いていく。最近は自動導入の望遠鏡も珍しくもないが、まだそのシステムにはなっていないので、ファインダーを覗きながら、星図をたよりに、しし座の明るい星から彗星のいるはずの場所へたどっていくのだ。 彗星のいるはずの場所に望遠鏡を導いて、カメラのシャッターを切る。感度ISO3200、露出60秒…。 撮影直後のモニターを覗いてみる。拡大し、画面の隅々まで見てみるが、それらしい天体は写っていない。少しずつ望遠鏡の位置をずらしながら数回そんなことを繰り返してみた。だが、結果は同じだった。どうしたことか。やはり暗すぎるのか? 念のため、星図上の彗星の位置をもう一度確認してみて、その理由がわかった。なんと、彗星の位置を星図にプロットするときに座標を読み違えていたのだ。これでは彗星が見つかるはずがない。馬鹿なことで時間を浪費してしまった。 今度は何度も数値と座標を確認し、星図にブロットし直した。そして、再度正しい位置へ望遠鏡を導いて、シャッターを切った。いや、切ろうとした。が、切れない。今度はカメラのバッテリーが容量不足となってしまっていたのだ。充電したバッテリーを入れたと思っていたのに、どうして!? しかし、その理由を考えている余裕はない。バッテリーを交換しなくては! だが、トラブルは重なるもので、今度はそのバッテリーがカメラから抜けないではないか。純正のバッテリーではないものが入っていて、最近どうも出し入れがスムーズにいかないとは思っていたのだが、この度は精密ドライバーをこじ入れ、バッテリーを抜こうとしてもどうしても出てこない。 もうこれはカメラを変えるしかない。 望遠鏡からカメラを取り外し、別のカメラに変えた。大幅な時間のロスである。ピントを合わせ直し、やっと、シャッターを切ろうとして空を見ると、今度は西の空から雲が湧き上がってくるのが見えた。悪いことは本当に重なるものだ。 祈るような気持ちで、シャッターを切る。雲がこちらにやってきませんように…。 設定した60秒がとても長く感じられた。無常にも雲の端が写野の中に入り込んでくる。 60秒後、モニターを覗くとすぐにそれとわかるものが確認できた。恒星とは違って光の拡散したような姿。このあたりに間違いやすい系外銀河もないはずだから、これは間違いなくアトラス彗星だ! クリアだった空は、にわかに雲が卓越するようになってきた。西から東へ雲が断続的に流れていく。時には空全体を雲が覆ってしまうようなこともあった。そんな空の雲の合間を狙ってアトラス彗星を撮影する。できればもう少し長い時間の露出をしたいところだったのだが、雲の合間では60秒が限界だった。 撮影できたアトラス彗星の画像は6年前のボリソフ彗星に比べれば、はるかにわかりやすいものだった。とはいえ、何も予備知識がない状況でその画像を見ても、ただの小さな彗星にしか見えないことだろう。 太陽系以外のどこからかやって来る天体というのは珍しい存在だが、太陽系から出ていく天体は以前から知られていた。 太陽の遥か彼方にあるとされるオールトの雲から太陽の重力によって引き寄せられた彗星のあるものは、放物線軌道や双曲線軌道をとって、太陽に近づいたのちに、二度と太陽に戻ってこないコースで太陽から遠ざかっていく。非周期彗星とよばれる彗星たちだ。これらの天体はこの恒星間天体のアトラス彗星のように、ひとつの恒星系に属することなく宇宙空間を進んでいく恒星間天体となる。今回、太陽の近くを通り過ぎて行ったこのアトラス彗星もどこかの恒星系から宇宙空間に放り出された天体なのかもしれない。 それにしても、別の恒星系からこの太陽にやってくるまでにはどれほどの時間を要したことだろう。人類が生まれるはるか以前。もしかしたら地球や太陽がまだこの宇宙に存在していなかったころから宇宙空間を漂流していたかもしれない。76億年から140億年もの昔に形成されたのではないかという研究報告もある。 遥か彼方から、想像を絶する時間をかけてやってきて、地球の傍を通りすぎていったアトラス彗星。写真に写った小さな彗星のその壮大な時間と飛行距離はとても並みの頭で想像する域をはるかに超えているに違いない。 |
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