2021年12月
かえる池4 
濁り水


根巻布で粘土を覆ってみた    2021.12.15.


 いったいいつになったら澄んだ透明な水になるのだろうか。
 池にたまった雨水はいつもいつもコーヒー牛乳色で、透明感は全くない。そして、雨に濡れた池の粘土はしばらくの間はブヨブヨで、水面の上にあるかぎり雨水が流れ下るたびにその表面から粘土成分やら黒土の粒子を削り取って池の中へと落としていくようだ。
 ベントナイトの特徴の一つに、水懸濁液は安定なコロイドを形成する、というのがあるのだそうだ。コロイドというのは直径1〜100nmくらいの微粒子の物質が別の物質と混じっているとき、均質に混じり合っている状態である。この状態が安定しているということはいつまでたっても濁っているということに他ならない。インクや墨汁や絵の具などはこのコロイドの状態である。インクや墨汁を静かにしてずっと置いておいても、いつまでたっても目立った変化は見られない。
 さて、どうしたものか。
 ベントナイトで固めた表面が?き出しになっていなければ、ベントナイトの微粒子が水中に流れ出ることはないはずだ。ならば、ベントナイトの上に土か砂を被せて、覆ってしまえばいい。水深は浅くなるが濁りは無くなることだろう。だが、問題は斜面である。それほど大きくない水たまりにしたため、水際はそれなりの傾斜を持った斜面となっている。この状態で斜面が保たれているのは粘土で固められているからで、土のままであればどんどん土砂は低い方へ落ちていくことだろう。自然の力は地面を平坦にする方向に働くのだ。もっともっと大きな田んぼのような池で、徐々に水深を増していくような傾斜であれば、表面を土で覆うのが最良の方法になるはずだが、この小さな水たまりにはあまり適さないに違いない。
 土や砂がではなく、何で覆えばいいだろう…?
 考えを巡らせているうちに、尾瀬で見た環境復元の場所に施された繊維質のシートを思い出した。緑化ネットというものらしい。土砂や植物の種子の流出を防ぐために裸地となってしまった場所をそのシートで覆って保護するのである。これならば雨が落ちても斜面の粘土を削り取っていくことはないかもしれない。そして、しばらくの間、表面を守っていてくれたら、斜面も少しは何かに覆われて、落ち着く…かもしれない。
 さっそくホームセンターへ使えそうなものを探しに出かけた。
 いろいろな網やシートがある。ところが、その多くはビニール≠はじめとするプラスチック製なのだ。なかには針金を使ったようなものもあったが、圧倒的にプラスチック製品であふれかえっている。おそらくその多くは生分解性プラスチックで、自然界にプラスチックとして残ることはなく、二酸化炭素や水として循環していくものなのだろうが、景観上あまり使いたくない。できれば植物繊維でできたものがいい…。
 やっと見つけた繊維質のネットは、植物の移植の際に根を包むのに使われる根巻布と呼ばれるものだけだった。素材は「ジュート」とある。ジュートは熱帯や亜熱帯に生育する一年生草本で、繊維は茎から採るようだ。しかし、耐久性はあまりないとのこと。まあ、仕方ない。プラスチックがボロボロになりながら自然に返っていくのを見るより、繊維質のものが有機物に分解されていくのを見ている方がずっといい。
 溜まってしまった濁り水をひしゃくで排水したあと、そんな根巻布を池の斜面に貼りつけるように置き、その縁を粘土で止めてみた。黒い地面が明るい茶色で覆われて、違った風景となったようだ。そして、その根巻布を止めた粘土の上に、庭や畑から採ってきたコケ(蘚苔類)を並べて置く。粘土が流れ出すのを防ぐためのグランドカバーのつもりだ。
 コケという植物は水分等の通路である維管束系がなく、種子植物やシダ植物のような水を吸い上げる根もない。コケの根は仮根というもので、単に何かにしがみつくためだけの働きしかしない。だから植物体の全体で吸水し、光合成をする。岩でも木の表面でも着生する場所と水と光があれば、生きて行けるパイオニアの生物でもあるのだ。うまく定着してくれれば水辺はいい感じになりそうだ。あとは少しずつ自然に溶け込んでいってくれるのを待つことにしよう。
 
 
 そして、雨がきた。12月の雨は雪よりも寒々とする。大した雨ではなかったが、雨水は池の中心部の一番深い部分を満たした。根巻布は池の底にまではカバーしておらず、一番深い部分は粘土が?き出しのままとなっている。それでも、濁ってはいるが、以前のようなコーヒー牛乳のような水ではない。これはいい感じかも…?
 たが、濁りが落ち着くのを確認する前に、今度は雪がきた。太平洋側に降るような雪ではなく、冬型の気圧配置で日本海側に降る雪なので大した積雪量ではないのだが、薄く白く池を覆ってしまった。
 そして、雪とともにやって来た寒波はとどめを刺すように池の表面をすっかり硬い氷で覆いつくしてしまった。この氷の下で、ベントナイトは落ち着いて沈殿してくれているのだろうか。あるいは大した水深ではなかったので、下まで凍り付いてしまったかもしれない。1日中凍りついたままの氷面下の様子はもう確認もできない。
 しばし、春の到来を待つことにしよう。
 

 




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