2025年6月
サンショ 超不作!


サンショの実  2025.6.21. 榛名山麓



 サンショの実の収穫の季節となった。5月ころの新芽のシーズンにはまだ柔らかい葉を摘んで葉山椒として利用したのだが、今度は青い(緑色ですが)実を摘んで、実山椒として利用する。連れによれば、この時期に収穫した実はアクを抜いてから冷凍保存され、1年間にわたりときどき麻婆豆腐やちりめん山椒などとして使われることになる。
 青いサンショの実の収穫の時期は梅雨の季節である。林の中はすっかりと下草が生い茂り、春先の開放的な林床とはずいぶんと様相が変わってきていて、場所によっては足元さえ見えないような藪となっていたりする。虫嫌いな人にはなかなか気軽に入り込めるような場所ではなくなってきていた。幸い虫は嫌いではないので、藪に入ること自体はそれほど苦ではないのだが、ブーンとやってくる蚊と、目の前をまとわりつくようにしつこく飛び回るハエの一種のクロメマトイはやはり苦手な存在だ。
 連れが念のため家の近くにあるサンショの実のでき具合を確認する。若すぎるとあのピリッとした味覚が足りないのだとか。試しに一粒を噛んでみると、口の中がシビれるような… いや、間違いなくシビれた。これなら大丈夫だろう。
 サンショの木は林の中のいたるところにあった。このあたりの雑木林ではコナラやミズキなどの大木が樹冠を覆い、サンショはその下の林の空間を生育の場としている。林の構造からすれば、低木あたりに位置することになるのだが、ミツバウツギ、サワフタギ、ミヤマウグイスカグラ、ガマズミズミ、ダンコウバイなどの低木と共に雑木林の中に点々と生えていた。
 ところが、である。毎年、同じような時期にサンショの実を収穫しているので、だいたいあのあたりに実がついている木があるはず、と思って林の中を慎重に進んでいくのだが、実が見つからない。もちろん、サンショの木がなくなってしまったわけではない。サンショの木はあっても、どの木にも実がついていないのだ。
 サンショには雄株と雌株があるということは知っていた。雄花が咲くのが雄株、雌花が咲くのが雌株。実ができるのは雌花が咲いた雌株だけである。だから、サンショの木があるからといって、どの木にも実がなるというわけではないというのは周知のこと。だが、どの木にも実がないというのはどういうことだ。
 確かこの木は昨年は実がついていたはず…、そんな木が何本もあった。1本、2本は勘違いだとしてもそれがそんなに多いはずはない。
 今年はサンショの外れ年なのか?? 柿などの果実では年によって豊作のときとほとんど結実しない年があるが、サンショにもそんなことがあるのだろうか。
 連れは “誰かが先にとっちゃったんだよ” などと言う。しかし、他人の敷地の藪の中に入り込むような人はそうはいないし、あの藪にはそんな踏み跡はなかった。先を越されたとは考え難い。
 それでも、実のついているサンショの木をいくつか見つけることはできた。1株みつければ、それなりの量が収穫できる。結実する木はたくさんの実をつけているのである。しかし、それらは昨年収穫した木ではなかった。結局、例年の2倍以上藪の中を歩き回ったにもかかわらず、収穫できたのは例年並以下でしかなかった。
 
 サンショの実の不作を調べているうちに、新しい事実を知った。
 サンショは性転換する、というのだ。
 性転換する生物はいくつか知っている。魚では体の大きさによってオスになったりメスになったりするクマノミなどの種が知られているし、植物ではマムシグサの仲間が性転換するのが有名だ。広い生物界の中では「性」はきっちり決まっているものではなく、なにやら少し曖昧なところがあるらしい。
 実は、このサンショの性転換については、もしかしたらそんなこともあるかも… と思い当たることがあった。
 それは家の西側にある大きなサンショの木のこと。栃木県の益子町の庭にあったのを掘り出し、ここへ植え替えたものである。益子町では実がなるサンショとして連れが大いに重宝がっていた木で、引っ越してくるときには、ここにたくさんのサンショが生えているとは知らず、わざわざ栃木県から連れてきたのだ。
 ところが、益子町ではたくさんの実をつけていたこの木は、期待に反して、こちらに来てからは一度として実をつけたことがないのだ。
 土地が合わなかったのか…? などと、いろいろ原因を考えたこともあったが、もしかしたら、性転換したのではないか、と話すこともあった。サンショの性転換については薄々想像していたことだったのだ。
 益子町からやってきたサンショの木は30年近い年齢を重ねてきている。若いころは雌株だったのが、歳をとって雄株に変わったということになる。ちょうどそのタイミングが引っ越しのときだった。あるいは、引っ越しのときの何らかの影響をうけて雌株から雄株に変わったのだろうか。
 そして、我が家の雑木林のサンショの木たちも多くが雌株から雄株に変わってしまったということなのだろう。
 その性転換のメカニズムはいったいどうなっているのだろうか。若いうちは雌株、歳をとれば雄株… という単純なものでもなさそうで、数十年も実をつけなかった株があるときから実をつけるようになったという話もあるようだ。
 植物全般の話として、太陽光、ストレス、成長の具合などが植物の性転換に関係する要因として考えられているという記事を見つけたが、具体的にそれがどう効くかということについてはまだまだ解明されていないことが多いようで、サンショについてもすっきりしない。誰かその理由を突き止めているのだろうか。
 家の雑木林では昨年に比べ、実をつけている株が少なくなってしまっているのは間違いない。林の中のサンショは圧倒的に雄株が多くて、雌株はほんの一握りしかない。
 さて、このオス化の傾向は来年も続くのだろうか。ちょっと気になる林の中の異変である。

 
 





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