2025年1月
榛名湖凍結


湖岸線に接岸した“ミニ流氷”  2025.1.7. 榛名湖


 榛名湖が凍結するのはいつか…?
 そもそも今年は凍るのか…?
 夏の暑さが一段とパワーアップし、地球温暖化という言葉を誰しも知るようになった現在、榛名湖の凍結した氷上でのワカサギ釣りが解禁とならない年も珍しくなくなってしまった。かつては凍結した湖面でスケートや氷上ゴーカートなどといったのもあって、冬の榛名湖は凍って当たり前だったようだが、ここ数年、人が立ち入れるような厚い氷はなかなか張らなくなってしまった。
 しかし、ひとたび榛名湖に氷が張るようになると、いろいろな不思議な音が聞こえてくる。氷の軋む音、割れる音、融けるときにも音がするようだし、夕刻から暗闇に変わろうとする頃にも…。 いったいどんなメカニズムでこれらの音が発生しているのか、とても興味あるところなのだ
 カルデラの底にある榛名湖のこの氷の音は、外輪山で反響でもするのか、かなり広範囲に響き渡ることもある。だが、榛名湖の不思議な音は、動画や録音などではとても再現できるものではなさそうだ。たとえステレオでも、あるいは5チャンネルのサラウンドサウンドでも、忠実に再現することは不可能だろう。たぶん現地のその場で、音を伝える実際の空気の中に身を置いて、空気の冷たさを感じながらでなければその本当の雰囲気は伝わらない。
 さて、今年は不思議な音を聞くことができるだろうか。
 湖面の様子を確認しようと榛名湖を訪れたのは1月7日のこと。雪の積もっていない榛名山のカルデラ内はアラレのような雪混じりの寒風が吹き、雪の白い風景よりもよけい寒々しく見えている。そして、風景の通りの寒さだった。
 榛名湖の湖面はまだらに氷ができ始めていた。まだまだ薄い氷だが、これから期待できそうな感じがある。
 氷や水鳥の様子を見ながら湖畔沿いにクルマを走らせ、榛名湖で一番寒いポイントと思っている所にやってきた。そこはヨシ原の近くで、冬季には榛名湖の上を吹き抜けてくる北西からの風を真正面に受ける場所だ。湖面には障害物がないのでどこも強い風が吹いていそうだが、風向と地形からそこは冬の風の通り道のようになっているのだ。
 吹きつけてくる風にあがらうように湖畔に立って湖面を見ると、意外なことにそこは凍ってはいなかった。体感温度はとても低いのだが、太陽の光が射し込むその場所の水温は他よりも少し高いのか、あるいは強い風によって水面が波立っているせいで、凍らないのだろうか。
 水際には氷の破片が押し寄せていた。風上でできた氷が何らかの原因で割れて、水面を風に吹かれて流されてきたのだろう。流氷のミニチュアのようだ。
 音が聞こえる。立っていたのは湖岸線から少し離れたところだったが、風の音に混じって、カサカサカサ… と、氷の触れ合う音が絶え間なく聞こえていたのだ。
 水際まで近づいてみるとその音はさらに鮮明に聞こえてきた。
 カサカサカサ…  いや、その音をカタカナの擬音で表せるほど単純なものではない。氷どおしが波の動きでぶつかり合い、いろいろな音をたて、それが混じりあって絶え間ない音となっているのだった。
 今まで知らなかった新しい榛名湖の氷の音! この音を聞くことができるのは、凍結し始めたころの、風下の湖岸線でだけだろう。完全に凍結してしまったなら、このミニチュア流氷は動かなくなってしまうから、もう音をたてることはなくなる。1年間を通してほんのわずかな日数しか聞くことはできないのかもしれない。
 凍結の始まりのころにここを訪れ、正面から湖面を吹き抜けてくる季節風を受けて湖畔に立った者だけが聞くことのできる榛名湖の冬の音だ。

 2日後、同じ場所を訪れてみた。
 相変わらず同じ方向から冷たい風が吹き付けてくる。そして、同じような氷のぶつかり合う乾いたような音…。だが、2日前とまったく同じではなかった。“流氷”の流れ着いている場所は少し沖合へ移動し、湖岸線に押し寄せていた氷の破片はすでにそれぞれが凍りつき、融合して動かなくなっていた。ここの氷の範囲はこうして少しずつ沖合へ拡大していくのだろう。

 さらにその4日後。榛名山西麓では午前中、わずかな時間だったが雪が降った。見る見る間に雑木林が白くなっていったから、降った雪は融けることなく積もっていたのだろう。
そして、榛名湖でも…。
 湖面は一変していた。それまで透明感のある氷が湖面に少しずつまだらに増えていったような感じだったのだが、この日の榛名湖は真っ白な雪に覆われ、湖面は雪原のようになっていた。もう、“流氷”の音は聞こえない。接岸した氷のかけらどうしが凍り付いた湖面も白い雪に覆われていた。榛名湖の“流氷”の季節は終わったのだ。
 これからは始まるのはまた別の不思議な音の季節。

 


湖岸線で固まった“ミニ流氷” と前進した流氷の湖岸線  2025.1.9.  榛名湖





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