2024年2月 雪のニホンリス |
2024.2.12. 榛名山西麓 |
自宅の雑木林には、雪が降ると現れるものたちがいる。 顔のあたりに黄色い部分が目立つミヤマホオジロがその代表的なもので、普段は見かけないのに、雪が降ったり、積もっていたりすると、どこからともなく現れて、立ち枯れたシソなどにとまっては、種をついばんだりしている。 そして、ミヤマホオジロほど律儀に雪が降ると現れるわけではないのだけれど、リス(ニホンリス)も雪が降るとどこからかやってくるメンバーの一員である。 一年を通して、ここでリスを見かけることは滅多にない。餌付けしているわけではないので、見られればとてもラッキーな存在だ。そんなリスなのに、雪が降るとかなりの確率で出現するのである。 今年も2月に降った雪とともに現れた。 林の奥の方から現れたリスは、物凄いスピードで雪面を走っていく。ただ走っているのではなく、ときどき一瞬立ち止まったり、飛び跳ねたり、フェイントをくれながらである。木の上では鳥に負けないくらいの軽い身のこなしで、枝から枝へ渡っていくような、まさに飛ぶような動きを見せてくれるが、それは林床でも同じだった。そうやって、しばらく走り回っていたかと思うと、木の上に駆け上がっていった。そして、座り心地のよさそうな場所に座ると、両手で何やら持って食べ始めた。林床を駆け回っていたのは食べ物探しだったらしい。だから一直線に走っていくのではなく、複雑な動きで走り回っていたのだろう。 小さな2つの手で小さな球形のものを持ち、口の前でそれを回転させながら齧っている。クルミのようだ。ここの林に落ちているとすればオニグルミだろう。その口の動きとクルミを回転させる手の動きは職人技のように忙しい。ニホンリスはクルミの実の合わせ目をぐるりと齧って、バカっと割り、脂肪分たっぷりの中身を食べるのである。 しばらくして、リスは木から降りると、再び林床を走り始めた。1個を食べ終わって、次を探しに出かけたようだ。見ていると、同じように林床を走り、雪が融けて地面が顔を出している所で落葉をかき分け、掘り始めた。あたかもそこに何かあると確信しているような掘り方である。 そして…。しっかりと何かを見つけたのである。少し確認するようなしぐさをした後、それを咥えて走り出し、再び樹上に上がった。そこでまた、あの職人芸のようなくるみ割り作業が始まった。 リスが掘り出した場所はサクラ ―正確にはエドヒガンという種類のサクラなのだが― の根元近くだった。そこにクルミの実が転がってくる可能性はまずない。近くにクルミの木はあるが、台風の風に吹き飛ばされたとしても、そこまでは飛んでこないだろうというくらいの距離がある。 自然に転がって来ないとすれば、当のリスがそこへ埋めておいた可能性が高い。そこにあるはず、という確信的な掘り方は、自分が埋めておいたからこその行動だったのだろう。 オニグルミの実が落ちるのは秋だから、リスは冬が来る前にクルミの木の下に落ちた実をせっせと集めて地面に埋めたということになる。実が落ちてしばらく経った後でクルミの木の下に行っても、ほとんど実が見つからないのは、こうしてリスが先にどこかへ持って行ってしまっていたからなのだろう。林床のあちらこちらにあるオニグルミの幼木は、こうしてリスが隠したまま、食べられることなく芽を出したものなのかもしれない。 リスにとっては冬の間の貴重なエネルギー源。オニグルミにとっては、子孫の分布を広げるための運搬者。リスとオニグルミは持ちつ持たれつの良い関係であるに違いない。 ところで、当たり前だが、クルミを隠したのは雪のない秋のはず。雪が降ると現れる≠ニぼんやり思っていたのだが、実はリスは知らぬ間にあちこちに出没していたことになる。“雪が降ると現れる”のではなく、本当は“雪が降ると見えてくる”というのが正確なところなのかもしれない。リスにとって、落葉と同系色の自らの姿が目立たない雪のないときには、ヒトの眼を欺くことなどたやすいことなのだろう。 この時の様子は ニホンリスのモグモグたいむ にあります |
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