2023年5月
オナガウジ


かえる池に現れたオナガウジ  2023.5.9.



 かえる池に産み付けられたアカガエルの卵塊からは無事に小さなオタマジャクシが誕生した。オタマジャクシたちは池の浅いところで日がな一日過ごし、その姿は日々大きく成長しているようだ。
 そんなオタマジャクシの成長具合を見ようと、かえる池をのぞき込んでみると、また奇妙な生物を見つけた。水中をくねるようにして動いている白いウジ虫のようなもの。それもただのウジ虫ではなく、体よりも長くて細い尻尾のようなものがついていて、水の中を漂うようにゆっくりと動いている。1匹ではなく、パッと見ただけでも4、5匹の個体がすぐに数えられた。小さなかえる池とはいえ、この水の中には相当な数が生息しているに違いない。
 尻尾をのぞいた体長はおよそ10mm前後。尻尾のように見える細長いものは体の長さよりも長かった。その姿は人によってはキモチ悪いと感じるかもしれない。一見、それは泳ぐウジ虫なのだから。
 この泳ぐウジ虫はハナアブの仲間の幼虫だ。
 ハナアブは「アブ」の名前はついているが、嫌われものの吸血性のウシアブのようなアブではない。むしろ姿はどちらかといえばミツバチなどのハナバチの仲間の方に似ているといえる。眼の形とか、翅の数とか、よく見ればハナバチの仲間とハナアブの仲間は間違うことはないのだが、花に集まってくるその姿はうっかりすると見間違えてしまうこともあるかもしれない。
 成虫は花に集まってくる明るいイメージのあるハナアブだが、落葉の降り積もった日陰の澱んだ水の中に、ちょっとキモチ悪そうな姿で漂っている幼虫は、とても同じ種とは思えない。まあ、変態をする昆虫ではよくあることなのではあるが。
 この水中のハナアブの仲間の幼虫にはオナガウジ≠フニックネームがある。まさしく、姿そのままの名前だ。
 水中に漂っている比較的大きな個体をひとつシャーレに入れて、見てみた。
 透明な体。中に2つの白っぽい管が通っているのが透けて見える。あるいは2本の管がつながって折りたたまれているのか? その他の内臓らしいものも見える。体の中が丸見えだ。
 ただの円筒形のように見えた体には脚があった。少し貧弱そうには見えたが、イモムシや毛虫にある脚のようなものがついていて、それが健気にも水をかいて、水中での推進力を作り出しているかのように見えた。幼虫が蛹化するときには、陸上に上がるとのことなので、そのときに本当の力を発揮するのだろう。
 そして、特徴的な長い尾のようなもの。これは空気の通り道・呼吸管とのこと。伸び縮みする細長い尾はお尻から伸びていて、この先端から空気を取り込むらしい。しかし、いったい何のためにこんな手の込んだ空気の取り込み方をするのだろう?
 植物の葉や枝にいるイモムシや毛虫たちもそれぞれ個性的だが、この水の中の幼虫オナガウジ≠熨鞄抹マわっている。
 
 かえる池の水位が少し上がった雨上がりのある朝。いつものようにオタマジャクシの様子を眺めようと水面をのぞきこむと、少し濁った底の方から細い針のようなものが水面に何本も伸びているのに気がついた。
 これは… オナガウジ!
 体の本体は底の方に隠れ、水面にシュノーケルの先端が出ているのだった。これが長い尻尾の本来の使い方か?! まるで海に潜む潜水艦? はたまた、水遁の術を使う忍者?
 水中をふらふら漂っているときには何のための尻尾なのかと思っていたが、実は水中に身を隠すための貴重な道具だったようだ。これが生き残るために彼らの遺伝子が試行錯誤を繰り返しながらたどり着いた今現在の形ということらしい。
 
 

水遁の術を使う オナガウジ






TOPへ戻る

扉へ戻る