2023年11月
陽だまりのキタテハ


樹液にやってきたキタテハたち  2023.11.8. 榛名山西麓


 11月というのに20℃を越える日が続いた不思議な秋。地球温暖化もいよいよ現実味を帯びてきたようにも感じられるが、それでも朝晩の気温は一桁にまで下がっていることが多く、榛名山麓の11月の夜はさすがに寒い。
 そんな晩秋の良く晴れたある朝。陽が少し昇り、気温が少し緩んできた頃のこと。樹液のあふれているコナラを過ぎ去ったあたりで、地面からキタテハが飛び立った。さらに少し歩みを進めると、そこにもキタテハがいた。いずれも木漏れ日の当たる暖かい場所。飛べるように体を温めていたのだろうか。さらに歩いていけば、また数頭のキタテハが目に入ってきた。アザミの花が咲いていた頃にはミドリヒョウモンがたくさんいたのだが、アザミの花が大体終ったこの時期、見かける蝶の姿はぐんと減っていたので、たくさんいるキタテハの姿は新鮮だ。
 しばらくたって、そのあたりを再び通りかかると、またキタテハらしいのが目の前を横切っていく。その行く先は、例の樹液酒場だった。太陽はさらに高度を上げ、コナラの樹液酒場にもちょうどその暖かい日差しが差し込んでいた。
 そこには… びっくりした! 驚くほどのキタテハの群れだ。10頭以上はいる。
 コナラの大木にはあちこちにスズメバチが開拓したらしい樹液の出口があるのだが、東側に向いた陽の当たっている場所に集中して集まってきていた。キタテハによく似たシータテハも1頭混じっていたが、他はみんなキタテハだ。少し前に道端で見たキタテハ達だろう。日光を浴びて、体が温まってから、一斉に食事にやってきたのかもしれない。
 タテハチョウの多くがそうであるように、キタテハも成虫で越冬する。キタテハの幼虫の食草はカナムグラやカラハナソウなど。このあたりにはいくらでもあるが、さすがに冬は枯れて無くなる。成虫たちは、来年の春になって幼虫たちの食べ物の新しい芽が出てくるころまでは生き続けなくてはならない。1年に何回も発生を繰り返すキタテハだが、秋に成虫になった個体は次の季節に命を繋ぐために、成虫の姿で来年の春まで頑張るという重大な任務を負ったものたちなのだ。
 この越冬する秋型は、初夏から夏のころに飛んでいる夏型とはずいぶんと違った翅をしている。類似するシータテハもそうだが、秋に成虫となったものたちの翅は切れ込みが激しく、黒い部分が少ない明るいオレンジ色の翅となっている。
 厳冬期になってしまえば成虫がエネルギーを補給できるようなものはまずない。活動できるような体温にもならないことだろう。11月の陽だまりの中でのんびり食事会を開いているようなキタテハ達だが、実は越冬前のエネルギー充填で大忙しなのだろう。異常に暖かい11月とはいえ、もうすぐ本当の試練の冬がやってくる。
 





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