2022年7月
背中で歩く幼虫



2022.7.12.  榛名山西麓の雑木林にて



 雨の合間をついて出た散歩でのこと。雑木林の林床に小さな白っぽいものがあるのを見つけた。すっかり緑に覆われた林だが、木々や草の根元は黒い土壌とゆっくりと腐葉土に変わりつつある枯葉が敷き詰められているようにある。雨に濡れた土壌はいつもより黒っぽく、そこにあった白いものは、よりいっそうコントラストを強めていた。
 何だろう…?
 そんな目を引くものが林床にあれば、確認することなく通り過ぎることなどできはしない。
 ゆっくり、しゃがみ込んでみる。
 ― 何かの幼虫だった。カブトムシの幼虫をずっと小さくしたような姿をしている。クワガタやカナブンやコガネムシといった甲虫の幼虫らしい。だが、そいつは仰向けになって、まっすぐ伸びきった姿になっていた。カブトムシやクワガタの幼虫といったら、脚を内側にして、「C」のように丸まっているものだが、そんな形とは大違いに背筋≠伸ばした姿で、あろうことか仰向けになっているのだ。
 これは − ハナムグリの幼虫!
 この姿勢で寝ころんでいるということは、たぶん、このままの姿で動き出すはずだ。ハナムグリの仲間の幼虫は、背中を使って動くという変な特技の持ち主たちなのである。
 少しの間、そうやって眺めていると、予想通り背面歩行が始まった。思いのほか速いスピードでまっすぐに進んでいく。6本ある脚は上空を向き、何ににも触れることなく、歩くことにはまったく用をなしていない。たくさんある体節を絶妙に動かし、わずかにくねくねと曲がりながら進んでいくのだが、体節の動きだけではなく、背面に生えている剛毛も重要な役割をはたしているようだ。
 しばらくして、見ているこちらの気配を察したのか、幼虫は潜り込めそうな腐葉土の場所で、そこに頭から突っ込み姿を消してしまった。
 それにしても、どうして雨模様のこんな日に地上に現れてきたのだろう。真っ白な姿は黒っぽい土の上では目立って、捕食されやすいことだろう。ふだん幼虫たちは比較的安全な土の中にいるからあんな白い姿でも大丈夫なのだろうが、こんな目立つ姿で地表にいるなんて。もしかして、危険を冒して地表に現れてきたのは、サナギになる場所を探すため?
 葉を食べて育つイモムシや毛虫ならば、食べ物を求めてあちこち動き回らなければならないから、移動手段はそれなりに持っていなければならない。けれど、腐葉土を食べるものたちは土の中が生活の場なのだから、歩きまわることはめったにないはずだ。その結果が、あのカブトムシの幼虫のような形となるのだろう。それなのに、ハナムグリたちはその姿で地面を移動するための技を修得したことになる。
 ハナムグリは大きくみればコガネムシの仲間に入るのだが、他のコガネムシたちに比べて格段に飛ぶのがうまい。カブトムシのような不安定な飛び方ではなく、アブやハエのような力強い飛び方だ。(コアオハナムグリ参照)
 そして幼虫時代も、他のコガネムシたちが移動手段をほとんど持たないのに、彼らに比して格段に効率的な方法を獲得していることになる。
 ハナムグリたちは重厚さを捨てて、フットワークの軽い、軽快な生き方を選択したコガネムシたちといえるかもしれない。

 

 





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