2022年2月バードケーキの波紋 |
昨年の晩秋から始まった今年の鳥の餌台のシーズン。 餌台に集まって来るのは、ずっとシジュウカラとヤマガラだけだった。極まれに、間違ったかのようにヒヨドリが水を飲みに訪れることはあったが、長居することなく、すぐどこかへ姿を消していた。ヒヨドリは案外、用心深いのである。 1月になって、餌台の周りにアトリ達もやって来るようになった。冬に渡り鳥としてやってくるアトリは年によってその数に大きな違いがあるとのことで、今年はどうやら大勢でやってきたようだ。だが、アトリ達は餌台に乗ることはなく、もっぱら地面に降りて、何かを突っついたり、落葉をめくって何かを探しているだけだった。その傍らで、シジュウカラやヤマガラたちはせっせと餌台に通い、そこに置かれているヒマワリの種を咥えては近くの梅の木の枝などで食べていた。同じ木の枝にとまっているアトリたちはその姿を見ていたはずだと思うのだが、そのマネをして餌台に乗ることはなかったのである。 餌台にヒマワリの種が置かれ始めた昨年の11月から今年の1月にかけての約3ヶ月間、そこはシジュウカラとヤマガラ専用のような餌台だった。 その鳥たちの餌場の一角にバードケーキが追加されたのは1月の終わりのことだった。 バードケーキというのは、鳥の餌として、小麦粉をラードなどの油分で固めたものなのだが、パン粉、砂糖、卵、マーガリン、サラダ油、廃油etc… いろいろアレンジされたレシピがあるようだ。 我が家の餌場に置かれたバードケーキは、赤城山の麓にある「やまの子ども農園」の子供たちが作ったもので、前橋市で開かれていた「ノマド市」というフリーマーケットに出ていたのをNさんが手に入れてきてくれたものである。 梅の木の枝にぶら下げられたバードケーキは小さなミカンくらいの真っ白な塊で、そこに小さなスギの枝がついていた。これは小鳥が捉まってバードケーキを突っつくための足掛かりとなるのだろう。 しかし、餌台のすぐ近くにもかかわらず、バードケーキは1週間以上、鳥たちに無視され続けていた。ヒマワリの種には来ても、バードケーキには見向きもせずスルーしていくのである。 やっと、バードケーキが食べものとして認識されたのは、14日目のこと。最初にそこにとまって突っついたのはシジュウカラだった。 逆立ちするように止まって、下の方を突っついている。バードケーキはぶら下がっているだけなので、突っつくと、シジュウカラがしがみついたままクルクルと回り始める。なかなかかわいい様子である。 ところが、次に現れたのはヒヨドリだった。シジュウカラが美味しそうに?バードケーキを突っつくのをどこかで見ていたのかもしれない。ヒヨドリはバードケーキのすぐ近くの梅の木の枝にとまって、体を延ばして突っついた。体の大きなヒヨドリは食べる量もシジュウカラなどのカラ類に比べてはるかに多い。クチバシを白いケーキの破片で汚しながら、ダイナミックに食らいついていった。 バードケーキを美味しい食べ物と認識したヒヨドリは、すっかりそれを我が物と思い込んでしまったようだ。同じように美味しい食べ物と認識したシジュウカラがバードケーキにとまると、どこからか威嚇するように飛んできて追い払ってしまう。そして、ついにはバードケーキの近くで見張るようにまでなってしまったのである。 さらに、それまでとまったこともなかったヒマワリの種がある餌台にも、水場にも降り立ち、餌台のある一帯を監視下に置いてしまった。それまで、入れ代わり立ち代わりやってきていたシジュウカラとヤマガラは、ヒヨドリの眼を盗むように、餌台にやって来てもオドオドしている。 そこでバードケーキをヒヨドリから取り上げるべく、吊るす場所を変えてみた。体の大きなヒヨドリはバードケーキに乗って食べることはできないから、何かにつかまって食べるようなことができない場所に置けばよいのではないか…? だが、ヒヨドリは一枚上手だった。あまり上手とはいえないながらも、なんとホバリングをしながらバードケーキを突っつきはじめたのである。もちろん、ハチドリのように長い時間ホバリングできるわけではない。じっくり狙いを定めて飛び立つと、ホバリングしながら数回クチバシで突っついて、どこかに着地。そこでとって来たケーキを味わっている様子だ。 効率は悪くなったが、着実にヒヨドリのお腹に消えていった。そして、バードケーキに対しての執着は一層強まったようにも見えた。 食べ終わっても遠くへ行くことはなく、近くの枝でじっと見ていることが多くなった。やってきたシジュウカラを追い払っては羽根を小刻みに身震いするように震わせ続けていたりしている。まるで何かにいら立って貧乏ゆすりをしているようである。なにしろ、カラ類の集う餌台の近くなので、餌台にヒマワリの種があるうちは鳥たちの往来は激しいのだ。小鳥たちもオドオドしながらだけれど、ヒヨドリもイライラとストレスを溜めているのかもしれない。 そして、そこへそれまでヒトの与える餌を無視し続けていたアトリが突如として参入してきた。何がきっかけなのかはわからない。ヒヨドリとカラたちの異変で、餌台の存在に気がついたのだろうか。
こうして、シジュウカラとヤマガラだけの平穏だった?餌台は、たった一つのバードケーキが引き起こした波紋にしばらくの間揺れた。 食べつくされたバードケーキの中から出てきたのは、ケーキの芯として使われていた松ぼっくりだった。そこへときどきシジュウカラがやってきては、カスのような残りを念入りに突っついているが、もうヒヨドリの姿は見ることはない。ヒヨドリの下手くそなホバリングではもうケーキはとれなくなったのだ。 餌台は平穏な日常に戻りつつある。しかし、餌台の存在を認識したアトリはもう我が物顔で、勢力バランスはバードケーキの前の頃に戻ることはありそうもない。バードケーキの波紋は、今シーズンの餌台のコミュニティーの再構築を促したかのようだ。 |
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