2022年10月
センダングサ



北アメリカからやってきたコセンダングサ Bidens pilosa var. pilosa


 烏川源流でクマタカの調査をしていたときのこと。
 この調査は、見晴らしの良い場所で上空に猛禽類が現れるのを待つのだが、飛んでいる鳥を観察する時間は一瞬で、いつ現れるのかと待っている時間の方が圧倒的に長い。ときには6時間も待っていて、待ち鳥現れず… などということも…。
 鳥を待つ間、足元にあったセンダングサの仲間の黄色い花の話になった。何年か前、センダングサの仲間の見分けかたをマスターしたと思っていたのだが、目の前にあるそのセンダングサの名前が出てこない。後になってそれはどこにでもあるコセンダングサだとわかったのだが、しばらく見ていないと忘れるものだ。いや、風景としては見ていたのだが、その花のひとつひとつをじっくりとは見ていなかったのだ。
 ひっつきむし≠ニして名高いセンダングサにはいくつかの種類がある。在来種とされるその名もセンダングサをはじめとして、アメリカセンダングサ、タウコギ、コセンダングサ、そしてその変種のコシロノセンダングサ、コシロノセンダングサとコセンダングサの間の雑種と考えられているアイノコセンダングサなどである。
 その見きわめは花の形を見てみればわかりやすい。キク科のセンダングサの仲間は筒状花と舌状花がいっしょになって一つの花を形作っているのだが、その有無や舌状花の色、花を包んでいる総苞片とよばれる部品の形がポイントとなる。筒状花というのはキクの花の中心部にあってリンドウの花のように筒状になっている花で、舌状花は頭状花のような花の一片がのびて花びらを作っているものだ。キク科の花はこれらが合わさって一つの花のように見えるものができている。
 筒状花しかないものがコセンダングサ、筒状花の周りに黄色い舌状花があるものがセンダングサ、筒状花の周りに白い舌状花があるものがコシロノセンダングサ、目立つ舌状花はなく長い総苞片を持つものがアメリカセンダングサとタウコギだ。アメリカセンダングサとタウコギは別の観点からも見分けなければならない。また、コセンダングサとコシロノセンダングサの雑種と考えられるアイノコセンダングサは筒状花に少し白い舌状花が混じるような花になっている。
 センダングサの仲間の復習をして、榛名山西麓の家の周りを見て回ると、そのほとんどがコセンダングサだった。その中に混じって少しだけ白い舌状花をつけたアイノコセンダングサらしいものがある。その白い舌状花の様子は様々で、ほとんどないコセンダングサとしたいようなものから、コシロノセンダングサにしてもいいかも…というものまで変化に富んでいる。雑種の程度の違いなのだろうか。コシロノセンダングサもコセンダングサの変種という扱いだから、見て回った場所のほとんどがコセンダングサだったと言ってもいい。数年前にアメリカセンダングサがあった場所もコセンダングサに変わっていた。センダングサグループの中では、コセンダングサが最強なのかもしれない。
 それにしても、黄色い舌状花の在来種であるセンダングサはどこにも見つからない。
 家の周りの道路沿いはもちろん、山麓の北西を見下ろすような場所にある広大な畑の縁、西麓の道路沿い、もう少し標高の高い南西麓の道路沿い、そして烏川の支流の沢沿い、鳴沢湖の周辺、南麓の榛名白沢の土手… ずいぶん広範囲に見て回ったつもりなのだが、黄色い舌状花をもったセンダングサはどこにも無かった。
 あらためて思い出しても、これまで榛名山麓で見たことがあったかどうか、定かな記憶はない。別の所で見た記憶も、定かではない。あったような… 無かったような… 記憶にもやもやとしたベールがかかっている。
 同じヒッツキムシ≠フオナモミはすでに絶滅危惧種の仲間入りしている。環境省のレッドリストで2007年から絶滅危惧U類である。群馬県立自然史博物館にある最新の標本は1958年のものというから、はるか昔に外来種のオオオナモミにとって代わられていたのだろう。オナモミだと思ってみていたのは、みんなオオオナモミだったようだ。
 昔から日本列島にあったセンダングサも、オナモミも、アメリカからやって来た外来種に負けて、いつの間にか身の回りから消え去ってしまっていた…。侵略者は静かに、気づかれぬよう日常に入り込んでくるものらしい。
 センダングサはいったいどこにあるのだろう。
 

 





TOPへ戻る

扉へ戻る