2021年9月 ボーベリア禍 |
ボーベリア菌に侵されたカメムシたち 2021.9.29. 榛名山麓 |
ツリフネソウの花が終わった林の縁に大きく成長したイタドリの株があった。春先に芽を出したイタドリはぐんぐんと伸び、夏の終わりころにはヒトの身長を越えるような大きさにまで成長している。 そのすでに枯れてしまったイタドリの茎に何か白いものが間隔をあけてたくさんついている。ボーベリア菌にとりつかれた昆虫のようだ。 ボーベリア菌ははっきりした子実体を作らない不完全菌類に分類される菌類の仲間で、カビのような存在である。ターゲットとなるのは昆虫で、生きている昆虫に付くとそこで菌糸を成長させ、やがて昆虫の内部からも白い菌糸が伸びてきて昆虫体を包むようになる。死んだ昆虫からカビが生えてくるのではなく、このボーベリア菌がとりつくことによって昆虫が死ぬのだ。昆虫にとっては恐ろしい病原体である。 イタドリでボーベリア菌の餌食となっていたのはカメムシだった。 それにしてもその数の多いこと。一カ所でこんなにたくさんのボーベリア菌によって死んだ昆虫を見るのは珍しい。茎の下の方から上に向かってカメムシの死体を数えていくと32個体も確認できた。不思議なことに白い姿をした昆虫の死体があるのはそのイタドリだけで、その周囲にはそれらしい死体は見当たらない。 カメムシはすっかり白い菌糸で包まれてしまっているものも、これから包まれようとしているものもあった。中にはまだ生きているかのようにイタドリの茎に口吻を差し込んだままぶら下がっているのもある。まだ菌糸が見えないものをつまんで見てみると、犠牲者はオオツマキヘリカメムシらしい。 もともとオオツマキヘリカメムシは群れをなしていることが多いカメムシで、イタドリの他、アザミやモミジイチゴなどでも群れているのを見たことがある。 すべてが同じように菌糸に包まれているというわけではないということから、おそらく、イタドリの茎にいたカメムシの一部にボーベリア菌が感染し、それがだんだんと周囲に感染して、次々とやられていったのだろう。 カメムシの世界には緊急事態宣言も、まん延防止等重点措置もなく、群れていたもの達は自然のままに流されていくしかなかったに違いない。 2020年、2021年…。ニンゲン界は1/5000mmにも満たない「SARS-CoV-2」と呼ばれる小さな物質に翻弄され、揺れ動いている。そして、イタドリの上のカメムシの小さな世界でも“ボーベリア禍”が起こっていたらしい。 |
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