2021年5月
ヒゲブトハナムグリ



ヒゲブトハナムグリ ♂  Amphicoma pectinata
2021.5.22.  榛名山西麓


 週間天気予報では雲や傘マークが並ぶ中、久しぶりに透明度の高い青空が上空に広がった5月の中旬のある日。ひとたび雲が消え、クリアな青空が現れると、そこには梅雨明けを思わせるような夏の陽射しがあった。
 前日の雨で地面はすっかり水分を吸っていて、そこに朝から強い陽射しが当たったものだから、地面からはモヤモヤと水蒸気が立ち上っていた。
 そんなモヤモヤの中で、地面近くの低空を小さな昆虫が飛び交っている。そのあたりではコハナバチの仲間が穴を掘って、コロニーを作っていたことがあったので、また小さなハチたちが飛び交っているのだろう…、と思って見ていた。
 すると…。
 しばらく飛んでいたのが、地面に降りた。
 あれ、ハチじゃない。
 遠目でよくわからないのだが、想像していたコハナバチの姿とは一致しない。静かに近づいてみると、やはりそこにいたのはハチではなく、体長1cmにも満たない小さな甲虫だった。地上に降りてもコハナバチの飛行にも劣らないような激しい動きで忙しく動いている。よく見れば同じような姿の甲虫が他にも地面に降りていた。重なって交尾体制になっているのもいて、これはあまり動かない。おかげでその姿がはっきり確認できた。重なって上にいるのがオスだろう。全身に長い毛をまとい、体の大きさに不釣り合いなくらいの立派な大きな触角を持っている。下にいるメスの姿はよく見えない。
 このモヤモヤの水蒸気の中で飛び交っていたのは、雨上がりのお祭り・彼らの集団お見合いなのかもしれない。少し離れたイチゴのあたりでもたくさん飛び交っている。中にはイチゴの葉の上にじっとしているのもいる。ちょっと祭りの熱狂から離れて一休み、なのだろうか。それとも目的を達成した個体か。
 この甲虫は何者なのだろう。触角や体の様子から、コガネムシの仲間だろうという見当はついた。数匹を捕まえ、コガネムシ図鑑を眺めてみる。
 ヒゲブトハナムグリ。
 コガネムシ図鑑にそっくりなのが載っていた。やはりあの立派な触角はトレードマークだったようだ。デジカメで撮影した画像を連れ合いに見せると、触角を前脚だと勘違いしたくらいだから、見た誰もがその大きな触角に眼が行くのだろう。もっとも、立派な触角を持っているのはオスだけとのこと。外で見たのはみんな大きな触角を持っていたように見えたから、たくさん飛んでいたのはオスだったのかもれしない。
 
 それから3日後。再び晴れ間がやってきた。だが、あれほど飛び交っていたハナムグリたちの姿はそこになかった。地面付近に眼を凝らすと、イチゴの葉の上に動かないオスが1頭。すっかり活性を失った様子で、もしかして死んでいるのではないかと思ったくらいだ。捕まえて手の上に載せてみると、正気に返ったように慌てて翅を拡げて飛んで行ってしまった。
 彼らがヒトの眼にとまるのは1週間とも2週間ともいわれるが、いずれにしても1年のうちの一瞬でしかないらしい。
 あの大集会に乗り遅れてしまったら、命を繋ぐチャンスは巡ってこないのだろうか。手の上から飛び去って行ったのは遅れてやって来たオスか、それとも、お祭りの後で命が尽きるのをただ待っているだけのオスだったのか。
 次のお祭りは1年後。参加できるのは次の世代のヒゲブトハナムグリたちだ。

 





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