2021年2月
ルリビタキ


ルリビタキ Tarsiger cyanurus メス… 本当?
2020.1.25.  榛名山西麓


 高崎市に住むTさんから観音山で撮ったというメスのルリビタキの写真が送られてきた。
 観音山というのは高崎市の中心から烏川の流れを隔てて南西側に広がる標高200mほどの丘陵地帯である。高崎の市街地からわずかしか離れていないというのに、ここにある常緑樹と落葉樹の混在した林にはいろいろな生き物たちが息づいているようだ。
うちの近くではメスしか見たことがありません≠ネどとメールを返信する。
 ルリビタキは冬になると稀に目にすることがある鳥だが、冬以外のときには亜高山帯から上にいて、なかなかお目にかかれない鳥なのだ。その名前にもなっている瑠璃色をしたのがオス。メスはジョウビタキのメスによく似た茶色からウグイス色といったオスに比べればずいぶんと地味な色彩である。
 そして、庭先にやって来るルリビタキはいつもメス。オスは別の所に行っているのだろう… などと、それがそれほど不思議な現象でもないような感覚でいたものである。
 研究熱心なTさんは我家の状況を解明すべく、さらに調べてくれた。
 すると… なんとルリビタキのオスの若鳥はメスのような姿をしている !!≠ニいうではないか。
 え゛!?
 バードウォッチャーの世界では常識だったのかもれしないが、勉強不足の身には耳を疑うような衝撃的な事実だった。ルリビタキのオスといえばあの美しい濃い青である。それなのにメスのような姿のオスがいる!?
 ルリビタキのオスはわずか1年ほどで生殖可能になるというのだが、生殖可能になったにもかかわらず、あのオスらしい瑠璃色にはならず、メスと同じような姿のままで、最初の繁殖行動に参加するのだとか。ルリビタキがその名の通りの瑠璃色になるのには数年を要するとのこと。
 Tさんが紹介してくれた立教大学の森本元らの研究では、オス同士の争いが激しいルリビタキの社会の中にあって、青く成熟した強い立場のオスの攻撃は、青くない個体のオスに対してはそれほど強くはないということを明らかにしている。これは力関係を明らかにすることによって無駄な争いを避けるという仕組みらしい。
 「遅延羽色成熟」(Delayed Plumage Maturation = DPM)と名付けられたその現象は、サンコウチョウやオオマシコでも見られるようだ。
 
 これまで家の近くで見かけるのはみんなメスばかりと思っていたが、どうやらメスに混じって若いオスがいた可能性が高い。
 それでは…、と思って過去のルリビタキの画像を再確認してみた。しかし、若鳥のオスとメスの違いは微妙で、専門に調査している人でも間違えることもあるとのこと。胸の羽毛の色・大きさ・形・アイリングの太さ・翼の色…など、チェックポイントはあっても、それは「個体差」のようにも見える。はっきりと、これは若鳥と判るようなものはなく、逆に、これがメス、と指摘できるものもなかった。これは困難度が高すぎる。
 もしかして、メスを含めてみんな若鳥だったりして…。
 そして、オスは瑠璃色になる前に死んでしまう…?
 いったいルリビタキの寿命はどれくらいのものなのだろうか。4〜5年くらいと書かれているものを見かけるが、その根拠までは書かれたものが見つからない。野生の鳥の寿命を推定するのも難しそうだ。
 小鳥の多くは最初の1年間を生き残るのが困難なようだから、平均寿命もそう長いとは思えない。オスの多くが瑠璃色になる前に死んでしまったとしても、それはそれでありうることだと納得してしまうのである。
 榛名山麓へ越してきてから家の周りで見たルリビタキはみんなメスのような姿をしていた。数年間は生き抜いたはずの長生きのオスは見なかったことになる。
 幸せの青い鳥はなかなかいないものである。
 青い鳥≠ヘそれ自体が熾烈な自然環境を生き抜いてきた幸運な鳥なのだろう。

 





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