2020年7月 沼の原 スズラン絶滅?! |
沼の原に咲くユウスゲ 2020.7.26. |
いつまでも降り続くような梅雨の雨が一息をついた日曜日の午後、榛名山のカルデラの中にある沼ノ原の草原を訪れた。 7月から8月にかけての沼ノ原はユウスゲをはじめとしてたくさんの草本が花をつける季節で、この頃には日を追うごとに次々と主役が移り変わっていくような様子を見ることができる。中でも榛名湖の東側のビジターセンターがあるあたりにはかろうじて湿原も残されていて、クサレダマやノハナショウブやチダケサシなどが賑やかな様子を見せてくれる。また、少し離れたところに「ゆうすげの道」として整備されている草原の道でも同じような花が咲き、その名の通りユウスゲの黄色い花が特に多く見られる場所となっている。どちらも榛名湖周辺では人気スポットで、花の咲く休日には多くの人たちが集まる場所である。 すぐにでもまた空から雨が落ちてきそうな気配を感じながら、その「ゆうすげの道」を時計回りに歩くことにした。北側の歩道は木道が作られていて、南側には木道がない。そのためなのか、ここを訪れるとつい木道のある北側へ歩みを進めてしまう傾向がある。 1年前の春、この木道の下にはわからないように穴が掘られ、キツネの親子が隠れ住んでいた。木道の周囲にイノシシの仕業ではないかという雰囲気の掘り返し跡があって、もしや、盗掘!?という疑いさえ浮かんだのだが、あるとき、ここにキツネの親子を見つけ、その状況を納得したものだ。 今年はそんな様子はない。あのキツネたちは別の場所へ移動していったのだろう。 新型コロナウィルスの騒ぎやら、いつまでも続く梅雨空のこともあって、ゆうすげの道を訪れるのは久しぶりのことだった。 木道は所々水たまりとなっている。午後の時間となっていることもあってユウスゲの黄色の花が開いていた。紫色のノハナショウブの花も今が盛りと咲いている。カワラマツバ、テリハノイバラ、コウリンカ、カワラナデシコ、オミナエシ、コウゾリナ、ヒメヤブラン、ノギラン、ネバリノギラン、タカトウダイ…。夏の花に混じって秋の花もちらほらと姿を現し始めていた。しばらくすれば、マツムシソウやキキョウなども加わってくることだろう。 しばらく行くと、木道が途切れ、地面を直接歩くような場所へと変わった。榛名湖観光のついでに立ち寄ったという人の中には、ここで引き返していく人もいるようだ。 やがて、道はスルス峠へ続く分岐点。なにやら、土が掘り返されている。キツネたちは今年はこっちの方で巣穴を掘ったのか…? と思ったのは一瞬だけだった。それは明らかに人間の仕業だった。盗掘ではない。歩道の整備らしい。歩道の中央の土がはぎ取られ、その土が両脇にどけられている。たしかに、「ユウスゲの道」の南側にあたるこの山際のあたりの歩道は、以前から木道ではなく、両脇に草本が生えて、夏になると少しヤブ気味ではあった。この整備のおかげでずっと歩きやすくはなっている。 だが、この道脇にどけられた土の下にはチシオスミレがあったはずだ。ニオイスミレも確かこのあたりに…。意外かもしれないが道端≠ニいう場所を好む植物は案外多い。ときどき踏まれたりして土は硬くなっているかもしれないが、日当たりは抜群なのだ。他ではなかなか見ることのできないチシオスミレやニオイスミレは、沼ノ原の草原の中ではなく、この道端にあったのだ。 歩道の整備≠ヘ「ゆうすげの道」の南側を歩いていくと、どこまでも続いているようだった。図ったように同じような幅で土がはぎ取られ、両側に寄せられている。ときには、念入りに広い範囲で土が寄せられているようなところもある。 そして、キャタピラの跡が現れた。この整備≠ヘ道路工事でもするように重機が入って土を掘り、両脇に盛ったのか…! 悪い予感がじわじわと湧いてくる。さらにこの先にはスズランの自生している場所があったはず…。 … スズランのあったはずの場所は見事に土に埋もれていた。それもわざわざ幅広く土が盛られているようだ。沼ノ原でスズランの自生している場所は他には知らない。もしかしたら、他にもあるのかもしれないが、これで沼ノ原では絶滅…?
「県立榛名公園」というのはレジャーランドなのか、と思って調べてみれば、確かに自然公園ではなかった。群馬県には県立の自然公園は存在しないのだとか。群馬県のHPによれば、ここは“自然然公園的な性格を持った県立公園”とある。なんともグレーな存在である。 沼の原の行く先には梅雨末期のような暗雲が立ち込めているとしか思えない。 |
2021.5.20.追記 | 2021年5月20日、沼の原のスズラン自生地を見てきました。絶滅を心配したのですが、掘り返し、土を被せられた場所からスズランの株が立ち上がり、花を付け始めていました。 植物としての力強さを感じました。一安心。 |
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