2020年1月
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2020.1.15. 月明かりのもと撮影した冬の大三角形とオリオン座 |
ベテルギュウスの減光が伝えられている。 2019年12月にビラノバ大学のエドワード・ガイナン教授の報告がWeb上に広く流布されたのがきっかけのようだが、日本のアマチュアの方々の中でもこの減光に気が付いていた人はたくさんいたことだろう。 オリオン座のα星・ベテルギュウスといえばいつ超新星爆発を起こすか≠ニ注目される赤色超巨星である。プロの天文学者が天文台の巨大な望遠鏡や、宇宙に打ち上げられた望遠鏡やら様々なものを駆使して、その正体を探ろう試みている星なのだ。 私は… といえば、オリオン座は見ていたのだが、その明るさに着目することはなく、あいかわらず節穴の眼は、まだベテルギュウスは健在だな≠ュらいの認識でしかなかった。 ベテルギュウスは明るさの変化する変光星である。空に輝く恒星の多くは大体いつも同じ明るさで輝くものなのだが、中には周期的に、あるいは不規則にその明るさを変えるものがある。 明るさが変わる原因としては、2つの恒星がお互いの周りを回転するためとか、表面の明るさが部分的に異なる星が回転するためとか、恒星の内部で起こる核融合反応が不規則となるためとか、いくつか原因が考えられている。 ベテルギュウスは核融合反応が不規則となって起こる「脈動変光星」と呼ばれるタイプである。脈動変光星はその名の通り、星自体が膨張と収縮を繰り返しながら明るさが変化すると考えられている。星が大きく膨張したときには暗くなり、収縮したときに明るくなるのである。この核融合反応が不規則になるのは、星の内部に核融合反応の材料となる水素が少なくなっていることを意味している。燃料≠フ尽きかけた星が最後の息をするように不安定な光を放っているようなものだ。 星はその自らの重力により中心部に落ち込もうとする力と、中心部で起こる核融合反応によって発生する莫大なエネルギーが外へ向かう力で均衡を保ち、その大きさと形を維持している。だから、星の内部の燃料≠ェ不足し、内部から外へ向かうエネルギーが尽きたとき、星は均衡を保つことができなくなって、中心部へ向かって潰れ、崩壊していく。超新星爆発である。 ベテルギュウスが変光星であることを最初に見つけたのは1836年、イギリスの天文学者であるジョン・ハーシェルとされる。そして、これまでプロ・アマチュアの変光星観測者たちは、変光範囲0.4等〜1.3等、変光周期約6年の半規則型変光星(SR型)と観測してきた。だから、ベテルギウスが暗くなったとしても、それは普通のことではあるのだ。 たくさんの観測者が作った近年のベテルギュウスの明るさの観測記録を見てみると、1989年、2003年、2006年に特に暗くなったことが読み取れる。このような大きな減光が以前にもあったのか、それとも最近の傾向なのかはわからない。最近顕著になったのだとすれば、いよいよ…?の期待は高まってくるというものだ。 あらためて冬の夜空にオリオン座を見てみる。ベテルギュウスはなるほど暗い。以前の明るいベテルギュウスの記憶からすれば、減光しているのは素人目にもわかる。もともとβ星・リゲルよりもわずかに暗かったのだが、今では比較にならないほどだ。オリオンのベルトにあたる2等星が3つ並んだ3つ星≠ニ同じくらいの明るさに見えなくもない。これでは1等星よりも2等星に近いくらいだろう。このまま暗くなり続けるということは考えにくいが、記録的な暗さを更新するとすれば、次に来るのは何か…? 銀河系内の超新星爆発の記録は1054年のものが唯一である。平安時代の出来事だ。おうし座の角の先端で起こった超新星爆発は昼間も見えたという記録が残っている。そしてその後にそこにできたのは有名な「かに星雲」だ。かに星雲までの距離は6500光年と見積もられているので、ベテルギュウスまでの距離・642光年に比べればはるかに遠い。ベテルギュウスの超新星爆発はきっと平安時代のものよりもずっと迫力のある爆発を見せてくれることだろう。 もうすぐその壮大な光が見られるかと思うとワクワクしてくる。 もっとも、天文学的時間のすぐ≠ヘ100年後かもしれないし、1000年後かもしれない。天文学が見積もるベテルギュウスの寿命が1000万〜900万年という数字からすれば、1万年後もそのうち≠ュらいのニュアンスだ。 それでも、もしかしたら、今晩東の空から上がって来るオリオン座の左の肩は眩く輝いてるかもれしない。自分が人間でいる間にその瞬間に立ち会えるとしたら、それはなんと幸運なことだろう。 |
2020.2.6.追記 | 2020年1月の末の時点で、ベテルギュウスの明るさは1.5等よりも暗くなり、四捨五入すれば2等星となったようです。 |
2020.3.18.追記 | 2020年2月になってからベテルギュウスは明るさを取り戻してきた様子です。 |
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