2019年9月
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桜の木にあいた穴から顔をのぞかせたアオダイショウ 2019.5.30. 榛名山麓 |
通りかかるたびに気にしている木があった。 通りに面した、幹の根元の直径は30cmは超えているだろうというくらいの、比較的太い桜の木。桜自体は珍しいものではないのだが、気になるのは、高さ5mくらいの所にある穴である。アカゲラかアオゲラが開けた穴が縦に2つ並んでいる。今年の仕事ではなく、過去に子育てをしたらしい穴で、穴の周りが丸みを帯びて、何やらいい感じになっているのである。 林にある穴は、その林に住むものたちにとって注目の場所であるらしい。シジュウカラやヤマガラたちは子育ての季節でもないのに、穴があれば覗き込んだりしていることがよくある。それは、木にできた穴に限らず、塩ビパイプの筒だったり、人間が作った小屋に空いた穴だったりといろいろである。もちろん、木にかけられた新しい巣箱のチェックも怠り無い。次のシーズンの下見なのだろうか。それとも単なる好奇心か…? 林の中の穴に注目しているのは小鳥たちだけではない。リスやムササビといった哺乳類も、カエルやナメクジやスズメバチも…。そして、ヒトも。もちろん、ヒトはそこを何らかの形で利用しようとかというわけではなく、何者が利用しているのだろうか、という好奇心ではあるけれど。 注目の桜の木の穴は、ムササビにはちょっと小さそうだけれど、モモンガならば余裕で使えそうな大きさである。リスにもぴったりだろう。けれど、確率的にはシジュウカラやヤマガラの巣になる可能性が高いかな… そんなふうに思いながら、いつもそこを通るたびに何か顔を出していないだろうか、と期待して眺めていたのだった。 だが…。5月の終わり、そんな期待を大きく裏切るような顔がそこにあった。 いつものようにそこを見上げると、何やら小さな白いものが見えたのだ。だが、下から肉眼で見上げただけでは、それが何者であるのかよくわからなかった。いつもの様子と何かが違うということは確かなので、ちょっと期待して、急いで望遠の付いたカメラをとりに戻り、そいつがまだそこにいることを祈りながら戻ってきた。 だが…。期待をしながら望遠のズームで覗いたそこにあったのはヘビの顔だった。何を考えているのか窺い知れぬような爬虫類の眼が見える。顔つきはアオダイショウのようだが、まだ小さな小ヘビである。白く見えていたのは、頭の部分を下から見ていたからだった。 ヘビが小鳥の巣を襲うことはよくある。卵でもヒナでも、ヘビにとっては御馳走に違いない。このアオダイショウらしい小ヘビもここにあった鳥の巣を襲ったのだろうか。穴から顔を出してじっとしているのは食事後の消化タイムになっているからだろうか。いずれにしても、ヘビがいるとこには鳥も哺乳類もいるはずはない。期待していたキツツキの古巣はまったくの期待外れだった。とてもよさそうな物件なのに、ヘビが目を付けてしまったとは残念なことになってしまったものである。 それでもその後も、もしかして…、の淡い期待のもとに、あいかわらずそこを通りかかるたびに足を止めて、何らかの変化が無いものかと穴を凝視するのだが、そのたびに期待は裏切られ続けた。 そして、8月のある日、再び出会ってしまった。同じように穴から少しだけ顔を出している白い頭。もう望遠レンズを使わなくてもわかる。あれは…、あいつだ。 柳の下のドジョウ≠狙って来たのか。それとも、すっかりあの穴が気に入ってしまって、そこに住み着いてしまったのか?ヘビに覚えられてしまった穴は、やはりもう使い物にはならないのか…?すっかりヘビの穴≠ニなってしまった桜の樹洞が平穏になるのは彼らが冬の眠りにつく頃か? フクロウ(ムササビ?)のために新しい巣箱を作らなければ… 桜の木の穴の下を通るたびに、そう思い出す今年の秋である。 |
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