2018年2月
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NPO法人アグレコの「鷹の森たかさき」が高崎市の倉渕町で行っているクマタカの調査に参加したときのこと。 降雪のあとの寒風の中、4〜5時間待ち続けて、クマタカが姿を現したのは遠方に豆粒のような姿でわずか数秒の間だけだった。 クマタカこそ一瞬しか見えなかったが、それでもいつもの場所にはベニマシコが群れでやってきたり、イワヒバリが現れたりと、それなりに見るべきものがあった。もちろん他にもカワラヒワやホオジロといったいつもの顔なじみ?たちの姿もヤブの中に見え隠れしている。 とはいえ、ホオジロやカワラヒワがヤブの中から現れても、誰も驚きはしない。見慣れすぎてああ、ホオジロね…≠ナ片づけられてしまうのだった。 ところがである。そこで一番鳥に詳しいUさんの一言で事態は一変した。 ここのカワラヒワにはオオカワラヒワが混じっている− オオカワラヒワ…? なんですか、それ?≠ナある。初めて聞いた名前だ。カワラヒワはカワラヒワではないのか。そこにいたUさん以外の人はみんな同様の反応をしている。 さっそくNさんはタブレットを持ち出してカワラヒワとオオカワラヒワの違いを調べ始めた。 −見分けるポイントは三列風切の白い部分が大きいこと、その白い部分が鮮明な白であること− バードウォッチャーが必至になって探し回るベニマシコやイワヒバリがそこにいるというのに、みんなの眼は何の変哲もないように見えるカワラヒワに注がれた。 −これはただのカワラヒワ。 −これは尾の方が白っぽいぞ。オオカワラヒワか? −あれは…? やってきた赤い鳥<xニマシコをそっちのけで、カワラヒワの微妙な違いに大騒ぎだ。 ベニマシコが近くにやってきているというのに、誰もそれを見ずにただのカワラヒワを見ているのは、少し鳥のことを知っている人が傍から見れば、何か珍しい光景だったことだろう。 調べてみると、オオカワラヒワの学名は Carduelis sininca kawarahiba とある。カワラヒワの亜種である。普通のカワラヒワと思っているのは Carduelis sinica minor という別の亜種名になる。こちらには「コカワラヒワ」の別名が付けられている。 普通のカワラヒワが留鳥として一年中見られるのに対して、オオカワラヒワはカムチャッカの方から渡ってくる冬鳥なのだそうだ。 カワラヒワを見る眼が変わった。 うちの庭に来ているカワラヒワはどっちだ? 帰宅するとすぐにカワラヒワを探した。冬の間、庭のカワラヒワのポイントは立ち枯れたシソの場所である。そこでシソの実をついばんでいる姿をよく見かけたものだ。 毎年、同じ場所にシソが生え、毎年同じように冬になると、そこへカワラヒワはやって来ていたのだ。だが、見たいときに見たいものはいない。探し物は目の前にあっても目に入らいないことがあるというが…。 そういえば、もうシソの実が無くなってしまったのか、思い起こすと、最近カワラヒワの姿は見かけることが少ないように思えてきた。今、庭にいるのはアトリの群れである。少し前はアトリに混じってカワラヒワの姿があったが、その数はアトリに比べて圧倒的に少なかったようだ。庭のカワラヒワを最後に見たのはいつのことだったのだろう。気にもかけていなかったので、それさえわからない。 翌日、双眼鏡とカメラを持ってカワラヒワ探しにでかけた。よくカワラヒワを見かけた思い当たるポイントは数カ所あった。しかし、カワラヒワの姿はどこにも見当たらない。見つかるのはアトリとホオジロとカシラダカばかりだ。いくらでもいたように思えていたカワラヒワはどこへ行ってしまったのか。 庭のカワラヒワポイントだったシソの近くに米もまいてみた。これまでベランダの餌台にカワラヒワが載ることはなかったが、しばらく前に連れ合いが庭に米をまいたときにはよく食べに来ていたものである。 しかし、そこへやってきたのはアトリの大群。地面に降りて押し合うようにして動き回る姿は壮観ではあったが、見たいカワラヒワの姿は全く無かった。 オオカワラヒワの存在を知ってから1週間。毎日のように仕事に出かける前に思い当たる場所をパトロールし、時間があれば窓からカワラヒワの姿を探したのだが、いまだカワラヒワを見つけ出すことができない。 連れ合いが言う。 「見つけようという殺気が出ているので、カワラヒワが逃げちゃっている」 見つからない探し物が見つかるのは、忘れたころ、と決まっている…? もうすでに立春は過ぎた。寒いとはいえ、季節は確実に春へと向かっている。北からやって来るというオオカワラヒワは春≠察してすでに北帰行を始めてしまったのか。時間切れが迫っている。 今、この状況で見つけようという殺気を消すのは、忍者のような修行が必要かもしれない。 |
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