2018年11月
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11月の榛名山は赤や黄色の暖色系に彩られる。10月頃は今年の紅葉はなんだか冴えないね…≠ネどと話していたのだが、前言撤回である。 いち早く葉を落として、枝だけになった桜のようなものもあるが、澄み切った青空を通り抜けてくる透明感の高い太陽の光を受けて、カエデの仲間、ダンコウバイ、ヌルデetc… それぞれ個性的な色を反射している。 紅葉・黄葉は、落葉する葉の最後の色であることは言うまでもない。一枚一枚の葉に意志があるなら、いったい何を考えているのだろう、とつい考えてしまう。 葉の役割は光合成をすることだ。水と二酸化炭素という材料を使って、ブドウ糖などの糖類を作り、太陽のエネルギーをその中に化学エネルギーとしてため込む。無限にあるような太陽エネルギーを自らの体の中で使えるようにするシステムである。ここで作られた糖類が植物が生きていくためのエネルギー源になるのだ。そして、食物連鎖により、巡り巡ってそのエネルギーは我々、ホモ・サピエンスが生きていくためのエネルギーにも変わってくる。 葉で作られたエネルギー物質≠ヘ、師管という通路を通って、幹や根へと運ばれていく。代わりに、その材料となる水は道管という通路で根から葉へと送られてくる。葉はエネルギー生産工場なのだ。 しかし、細胞でできている葉も、生きていくためのエネルギーを必要としている。それはエネルギー物質≠水と酸素に分解し、そこからエネルギーを取り出す「呼吸」という化学変化が受け持っている。「光合成」と「呼吸」は対の反応のようなものだ。 暖かく、太陽エネルギーが十分にあれば、光合成で作られる糖類の方が、呼吸で消費される糖類よりも多いので、植物の経営≠ヘ黒字である。だが、その逆になったとき、すなわち、太陽エネルギーが少なく低温になり、光合成よりも呼吸で消費される糖類が多くなってしまったら、経営は赤字に転落だ。このままでは倒産=枯死の危険が生じてくる。 そこで行われるのがリストラ≠ナある。それには光の量だけの問題ではなく、すべての生きているものに宿命のように存在している老化という現象も絡んでくるようだが、植物体のどこかで、エネルギー生産工場の閉鎖が決定されることになる。 具体的には、緑色のクロロフィルなどの光合成色素が分解され、葉に残されていた有用な物質は根や幹へ送られる。やがて、葉の付け根(葉柄の付け根)に離層と呼ばれるものが作られ、道管と師管が遮断され、根から葉への水の供給と、葉から枝への糖類等の供給が断ち切られるというプロセスが明らかになっている。 本社≠ゥら切り離される葉が最後に生産するのが、残った糖類を使って作る赤いアントシアニンと呼ばれる色素なのだそうだ。葉の中に含まれていたクロロフィルやカロテノイドから分解してできた有用な物質を、幹や根へ送り届けるまでの間、クロロフィルやカロテノイドなどに代わって太陽光から葉を守る役割がこのアントシアニンに与えられる、という研究がある。もちろん植物の種類によって、アントシアニンを作るものもあれば、作らないものもある。 リストラ≠ウれる前の葉が見せていた緑色は、光合成で活躍しているクロロフィルなどの色だった。そしてリストラ≠ウれた葉が見せる最後の色は、分解され残ったクロロフィルやカロテノイドといった光合成色素と、この最後に作られたアントシアニンが作り出す合成色なのだ。 黄色の葉は、ただ単にクロロフィルが無くなって、残されたカロテノイドの色。 黄色に少し赤みが加わった葉は、少しだけアントシアニンが加わった色。 赤い葉は、最後にアントシアニンがたくさん作られた色…。 紅葉した葉はただ散るのを待っているのではなかった。最後まで幹や根のために、残せるものはすべての残そうとする、最後の役目を今、まさに実行中なのだ。 今まで赤も黄色もみんな同じように見えていたのに、今年は妙に赤が気になる林の眺めである。 |
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