2018年10月
届けられたヤマネ


 休日の夜、家に帰り着くと死んだヤマネが段ボールの中にいた。
 何のことかわからず、連れ合いに聞いてみると、近くに住むWさんのところで飼い猫が捕まえてきたものらしい。それをわざわざ届けてくれたというのだ。Wさんの奥さんは、どうもヤマネが…、というより、ネズミのような姿をしているもの全般が大嫌いのようなのだが、どこかでそれがただのネズミではなく、ヤマネである、と気づいたのか、別の誰かが気付いたのか、どこにも捨てられることなく、無事に?我が家へ、小さな体には不釣り合いな大きな段ボールの箱に入れられてやって来たのだ。
 ここへ越してきた頃、12月の林で見つけて以来、久しく本物にはお目にかかっていなかった。初めてここでヤマネの存在が判ったときには、どこかで越冬しているのだろうと思って、林の中の木の洞やら大木の根元やら、目ぼしいところをずいぶんと探し歩いたものである。結局、いくら探しても見つからず、ヤマネ・マイブームは静かに鎮静化してしまったのだが、予期せぬヤマネの出現は、そんな記憶を呼び起こすのに十分すぎる力を持っていた。
 しかし、段ボールの中のヤマネはずいぶんと小さいように見えた。定規を当てて、およその大きさを測ってみる。鼻の先から尻尾の付け根までは約6cm。尾の長さは約5cm。図鑑などに載っているサイズに比べて、やはり少し小さめのようだ。そして、体重を測ってみると、10g程しかない。誤差はあるにしても、10gは標準体重≠ゥらするとかなりスリムなヤマネということになる。まだ子供なのだろうか、と思ってしまうような体つきである。
 冬を前にしたこの時期、ヤマネの体重は最大になる頃である。越冬前に蓄えた体の脂肪が長い越冬期間中のエネルギー源になるからだ。
 ヤマネの越冬は、クマのような浅い眠りの冬ごもりとは違う。完全に眠り込み、恒温動物とはいえ、体温も0℃近くまで低下することもあるのだとか。冬眠というか、仮死状態のようだ。エネルギー消費を切りつめて、代謝をギリギリまで減らし、体の中の蓄えだけで冬を乗り切らなければならない。その期間は6〜7カ月にも及ぶことがあるのだという。1年の半分を寝て暮らすのだ。半年分の蓄えを体の中に持っていなければならないことになる。およそ15g。これくらいが生き残れる体重のリミットと考えている研究者もいる。
 ヤマネが冬眠に入るのは気温が15℃を下回り、10℃に近づいてきた頃という。榛名山麓の夜はすでに10℃を下回るようになってきた。ヤマネは冬眠に入らなければいけない時期である。もはや、これから食って太るという時間はない。猫に捕まってしまった…とはいえ、このヤマネは所詮、冬を越せない個体だったのかもしれない。
 飼育下では7〜8年も生きる個体があるというが、野生のヤマネの寿命は3年程でしかないらしい。越冬中に死んでしまうものも少なくないのだとか。
 このヤマネの親兄弟たちは、十分に食べて、無事に眠りにつく場所を見つけられただろうか。
 これから4月ころまで、ヤマネの長い眠りの季節である。





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