2017年9月
ヒリヒリガンガン




“ヒリヒリガンガン” こと イラガ−Monema flavescens− の幼虫



 ヤマボウシの下に生えたワレモコウの茎に、背中に“触ったら痛い目に遭うぞ!”と言わんばかりに毒毛をいくつも立てている幼虫を見つけた。黄緑色の、蛍光色ともとれるような色をした鮮やかな色だが、緑色の葉が主体の草の中では同化してしまったように、目の前にいてもそれと認識するまで判らなかった。体長は3cmほど。イラガの幼虫である。 触れる前に気が付いてよかった。一瞬でも触ったらひどい目に遭うことはすでに何度も学習済みである。こいつに触れたとたん、その場所には激痛が走るのだ。それはハチに刺されたのに匹敵する痛みである。
 最初にこの激痛を体験したのは、実家の埼玉県熊谷市の庭に生えていたカキの木に登って黄色くなった実を採ろうとしていたときだった。まだ小学校に通っていた頃のことである。カキの葉が腕に触れたと思った瞬間、その触れた場所が電気が走ったかのように痛み出したのだ。そのときは何が起こったのか全く判らなかった。ハチのような危なさそうな奴などどこにも見えない。しかし、その場でさらに二次攻撃、三次攻撃を受けた。あわてて動き回って、カキの葉に何度も触れたのだろう。正確にはカキの葉の裏にいたイラガの幼虫に。
 その正体を突き止めたのは、カキの実の収穫を諦めて、下からカキの葉をよく見てみたときだった。この日、このときが、「イラガ」という蛾の幼虫を認識した最初だったように思う。

 この激痛をもたらすイラガの幼虫は、多くの人がその痛さを経験しているようで、よく知られている。「イラガ」という名前は知らなくても、それぞれの地域で存在が知られ、たくさんの名前がつけられているようだ。
 最初にやられたときに「イラガ」という名前を知ったのだが、熊谷市の高校に通っているころ埼玉県深谷市に住んでいた友人が教えてくれた名前は“デンキブラン”だった。そして、10年くらい前、深谷市の青年が教えてくれた名前は“ヒリヒリガンガン”だった。職場のある埼玉県北部ではこの“ヒリヒリガンガン”がポピュラーである。このように同じ地域でも複数の名前を持つくらいインパクトの強い虫なのだろう。全国的に見れば、デンキムシ、イラムシ、オコゼ、オキクムシ、シバムシ、イガムシ…、数え切れないほどの名前がつけられている。いずれにしても、そのニックネームの由来がその強烈な痛みと容姿にあることは想像に難くない。
 ところが、その強烈な痛みをもたらす毒成分について、未だはっきりとその成分が突き止められていないらしいというではないか。「ヒスタミンとタンパク質性の発痛物質らしい」というあいまいなままで、具体的にこれ、という物質名まではまだ解明されていないようなのだ。どこにでもいそうな幼虫なのに、残念ながら化学者たちの興味を引くような対象ではないということか。
 何が判っていて、何が判っていないのか。自然界には判っていそうで、判っていないことは思っている以上に多い。庭先にも未だに解き明かされていないものがいくらでもある。何かが判っていないということが判ったとき、その謎は自然界への興味をさらに奥へと導いてくれるようだ。化学者たちの興味を引くには少し弱いらしい“ヒリヒリガンガン”だが、謎を持った強烈な毛虫として話のネタにはなかなかな存在である。





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