2017年9月
笑うカメムシ



“笑うカメムシ” アカスジキンカメムシの幼虫



 「この虫は何ですか?」と、聞かれることがある。
 それはメールであったり、会話の途中で「そう言えば…」と、スマホやタブレットの中の画像を引っ張り出してきたり、ときには直接その虫を持ってきたりと、聞かれ方はいろいろだが、当人が珍しそうな虫に遭遇したときに、その正体や名前を尋ねられるのである。
 おかげで、ときにはなかなか眼にすることのない珍種を見せてもらえることもあるので、答えが出るかどうかは別として、ワクワクするものだ。
 今年、続けて2件、同じ昆虫の画像を尋ねられた。アカスジキンカメムシの幼虫である。一見、甲虫のように見えるその昆虫の背中には黒みがかった銅色の地に白い模様が付いている。そこには小さな黒い眼が付いていて、大口を開けて笑っているように見える。、大きく開けた口には上の前歯も付いているようだ。この笑い顔を背中に背負った姿から、「笑うカメムシ」と呼ばれることがある。だが、それも幼虫時代の姿で、ひとたび成虫になると、メタリックな緑色の地に赤〜オレンジ色のラインの入った美しい姿に変身する。
 実は、昨年もこの“笑うカメムシ”が持ち込まれた。ここ2年間で3回、同じ虫について聞かれたことになる。これはなかなかの頻度である。
 アカスジキンカメムシはそれほど目にする機会は多くないカメムシだった。ところが、ここ数年この“笑うカメムシ”状態のアカスジキンカメムシがあちこちで目撃されるようになった。庭の木々の幹や葉の上はもちろん、気がつけば家の中にも入り込んでいることもある。「採ってこい」と言われれば、すぐに庭先で採集することができるだろう。
 尋ねられた3件は、1件が群馬県中之条町で、2件が高崎市での目撃である。いずれも榛名山の近くではあるが、榛名山ではない。これは、榛名山を含むこのあたり一帯で大発生しているということなのだろうか…?「“笑うカメムシ”大発生!」のニュースはまだ聞いたことがないのだが。
 それにしてもこのカメムシの背中の模様はユニークである。顔を背負ったカメムシとしては東南アジアにいるという「ジンメンカメムシ」が有名だが、日本にも「メンガタカスミカメ」という名前がついているカメムシがいる。こちらの方はそれほど人面のイメージはないが、そう思って見ると人の顔が見えてくる。他にもオオホシカメムシなど人面を連想させるようなカメムシは日本にもたくさんいる。多くは頭を下側に、腹側を上にして見たときに顔が見えてくるが、逆にして見ると顔が見えてくる場合もある。アカスジキンカメムシの幼虫の場合は逆である。カメムシの世界では背中に顔を背負っているのはそれほど珍しいことではないのかもれしない。
 何らかの輪郭の中に逆三角形に置かれた3つの点を見たとき、ヒトの頭はそれを「顔」と認識する… というのは「シュミラクラ効果」というのだとか。あるいは、「パレイドリア効果」というのもある。それはヒトの祖先達が生き延びるために、他者をいち早く発見し、その顔を見て、味方か敵か、安全な奴か危険な奴か、を判断しなければならなかったというせっぱ詰まった状況が作り出した脳の働きであるという説がある。だからといって、このカメムシたちの背中の模様がそれに関係しているかといえば、たぶん違う。カメムシの背中に顔を見ているのはヒトの脳が勝手にやっていることだ。何の理由があってこの模様なのか、そもそも理由があるのか。それはカメムシたちも知らないに違いない。自然界のデザインはいったいどうやって出来上がってきたのだろうか。





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