2017年6月
エナガの群れ



ヤマグワの細い枝にそろったエナガたち  2017.6.22. 榛名山麓



 小鳥たちの巣での子育ては一段落したようで、木に掛けた巣箱からはシジュウカラやヤマガラが巣立ち、あちこちから聞こえてきたささやくようなヒナ達の声も聞かれなくなった。空き家となった静かな巣箱がお祭りの後のような少しもの悲しい雰囲気を醸し出している。
 6月のある日、そんな林に鳥たちの群れが戻ってきた。ザワザワとした雰囲気を感じ、ふと見上げると、鬱蒼とした緑の中にある立ち枯れて葉の付いていないヤマグワの木にたくさんの小さな鳥が集っていた。
 大きさはメジロと同じくらいに見えるが、特徴的な長い尾がシルエットとして見えている。エナガだ。だが、いつも見るエナガの群れとは少し違っていた。エナガの群れはいつ見ても忙しく飛びまわっていて、一カ所にじっとしていることはあまり無い。そして、いつの間にか1羽、2羽と、少しずついなくなっていくのだが、この群れはそうではなかった。1つの枝に数羽が寄り添うようにかたまってとまり、その周囲にも数羽がそれほど離れずにとまっている。じっとよく見ると、全身が毛羽立っているようにも見える。そのためなのか、飛びまわるというよりも念入りに羽づくろいをしている。これはまだ巣立って間もないヒナたちのようだ。1本の枝にくっつくように並んで羽づくろいする姿は、まだあどけない様子である。いったい何羽の群れなのだろう。あまり移動しないとはいえ、葉の向こうに見え隠れしているのもいて、あまりの数にとても数え切れない。
 群れはしばらくの間、その場所でザワザワと集った後、いつものエナガのように1羽、2羽…と、どこかへ消えていった。
 図鑑等で見ると、エナガは卵を1つの巣あたり7〜12個くらい産むとある。全部巣立ったとすれば10羽前後の雛たちがひとかたまりの群れとなっているはずだが、この群れはそんな少数ではなさそうだ。
 興味深いことに、エナガの子育てに関わるのは親だけではないのだという。繁殖に失敗した仲間や、前の年の子供達などが、ヒナにエサを運んできたり、場合によっては抱卵することもあるのだとか。こんな親以外に子育てに参加するものたちは「ヘルパー」と呼ばれている。エナガ一族総動員しての子育てである。この群れにもヒナと親以外にヘルパーが混じっていたのかもしれない。
 保育園、幼稚園、託児所が足りない…、と嘆いている人間世界に比べて、エナガの世界は子育て支援の社会保障が充実しているようだ。
 とはいえ、エナガの子供達が無事に育つ確率はそれほど高くはないらしい。日本野鳥の会の論文集「Strix vol.23 」(2005年)にある赤塚隆幸氏の「エナガの卵や巣内ビナの捕食者」では、岐阜県・愛知県の木曽川河川敷で2000年〜2004年にかけて行った調査で、営巣結果が判断できた178の巣のうち、繁殖に成功したのはわずかに51巣でしかなかったと報告している。成功率は28.7%である。1994年〜1997年にイギリスで行われた調査ではさらに低い17%とある。何者かに襲われて補食されただけではなく、天候によるもの、巣そのものの構造的な欠陥によるものなど、失敗の原因は様々だ。
 そんなことを考えると、幸運にも無事に巣立つことができたヒナたちは、群れにとって本当に貴重な存在だ。繁殖に途中で失敗してしまった親たちまで、ヘルパーとなって子育てに参加するというのも判るような気がする。
 ところが、エナガはときにはシジュウカラなど別の鳥の子育てまで手伝うこともあるという。これは驚きである。同じ群れの子育てを手伝うというのならば理解もできるが、別の種類の鳥の世話まで焼くとは、単なる世話好きなのか、お人好しなのか。ホトトギスやカッコウが別の鳥の巣に卵を産んで育ててもらうのとは大違いだ。
 冬の間、カラたちは種を超えた混群となって森の中で群れている。その群れが次々と移動していく先導となるのはエナガであることが多い。体の小さいカラ達よりもさらに小さいエナガが冬の間、混群のリーダーのようだ。それは、ちょこちょこと動き回るエナガの行動パターンがそうさせるのかもしれないが、案外、こんな世話好き?の性格も一役買っているのかもしれない。





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