2017年6月
天 の 川




2017年6月20日の天の川

 
 「天の川を見たことがない」と言う人は意外なほど多い。都市部に住む人にとって夜空は無縁の世界だし、星に興味がなければ天の川が見えるような所まで出かけていって見ようなんて考えもしないのだろう。実際、いざ天の川を見よう!と思っても、榛名山麓にいてもそう簡単に見えるわけではない。
 冬の淡い銀河ならば晴天が続く12月から2月ころの透明度の高い、月のない夜に外へ出てみれば眼にすることはできるだろうが、存在は判ってもそれは淡い光の帯でしかなく、あまり「天の川を見た」という実感は湧かないかもしれない。天の川を見た、と実感できるのはやはりいて座からはくちょう座へ続く、まるで雲のような濃い夏の天の川を見たときだ。
 夏の天の川を見るのは冬の天の川を見るのよりも格段に難易度が上がる。
 夏の大気は水蒸気たっぷりで、透明度がとても悪く、たとえ晴れたとしても、すっきりとした冬の空のようなクリアな空はなかなか望めない。夏に透明度の高い夜空に巡り会えるとすれば、雷雨のような夕立が上がった後とか、台風が過ぎ去っていった直後くらいなものだろう。
 そして、空には夜空を明るく照らす月があってもいけない。透明度の高いクリアな空があったとしても、月の光は相当に明るく、天の川の淡い光をかき消してしまうのだ。
 天の川が最も濃い部分になるいて座が南の空に昇っている時刻に、透明度の高い晴れ間と月の無い夜空という2つの条件が重なったとき初めて見事な天の川が見られるのである。もちろん、十分な暗さと南の方向が開けているロケーションは最低条件だ。
 こんなことから、美しい夏の天の川を見る最も良い季節は4月の明け方だと思っている。
 上空にまだ冬の乾いた空気が残っている4月は、夜半前は透明度がそれほど高くなくても、夜明けにかけてグングンと素晴らしい夜空に変わっていくことがよくある。そこへ東の空に横たわっていた天の川がだんだんと立ち上がってくるのだ。

 梅雨に入った6月の空で、4月の天の川にも負けないような天の川に巡り会った。梅雨前線が南へ下がって、寒気が上空に入っていると、ときにはこんな幸運な日もやってくる。
 その日、夜遅く帰宅すると、上空には満天の空が広がっていた。木星は西の空へ傾き、気になっていたジョンソン彗星もすでに南西の空である。
 南を見ればてんびん座は南中を過ぎ、さそり座の頭がちょうど真南あたりに来ていた。天の川はさそりの毒針あたりを通っているから、まだ東の空に傾いている状態だ。
 ジョンソン彗星を捉え、その撮影を一段落した頃になると、南の空に天の川がだんだんと雄大な姿となって見えてきた。いて座からはくちょう座まで、濃淡のある雲のような天の川が大きな光の帯となって、南から頭上へ延びている。天体用のオペラグラスで覗いてみるとその濃淡はよりはっきりとわかる。暗黒星雲を見ているのだろう。冬の天の川ではとてもこんなふうには見えない。
 この雲のような光の帯に望遠鏡を向けて、これが星の集まりだ、と見抜いたのはガリレオ・ガリレイだったと伝えられる。日本で関ヶ原の戦いがあった9年後の1609年のことという。人工の光であふれかえる現在の地球上では想像もできないような夜空がそこにはあったことだろう。
 そんなガレリオの時代には遠く及ばない天の川の姿だが、雲ひとつ無い夜空に、一年にそう何度もお目にかかることのできないようなクリアな濃い流れとして、いつの間にか雑木林の上に真っ直ぐ立ち上がるようになっていた。
 時計を見ればすでに午前2時過ぎ。星を見始めてからすでに3時間という時が過ぎていたが、寝てしまうにはあまりに惜しいような星空の夜だった。





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