2017年5月
スズタケの花



スズタケの花     2017.5.21. 榛名山西麓



 竹に花が咲くと枯れる、ということをよく聞く。
 野外を歩いていると、ときにはササに花がついているのを見ることもある。花をつけているときはきまって一個体だけではなく、その周りの株すべてに花がついているものだ。おそらく、地下では根がつながっていて、別の個体のように見える隣の株も、クローンの同じ遺伝子なのだろう。
 そんな花の付いたササを見るたびに、もうこのササは枯れるのだな…、と思う。が、その場限りのことなので、実際にそれが枯れたのかどうかは確かめたことはない。

 山麓の荒れた雑木林の林床を覆っているササに花を見つけたのは、木々に緑の葉が生えそろう頃だった。道などない雑木林の中をあてどなく彷徨っているときに、偶然目に入ってきたのだった。
 葉がついていない枝先に出た少し紫色がかった黒い穂から黄色い雄しべらしいものが垂れ下がっている。竹やササの花は、「花」といっても全く地味なものだ。イネ科の花はみんなこんなもので、イネ科やカヤツリグサ科の植物は、花というより小穂(しょうすい)と呼ばれる穂状の構造物をつくり、この中に雄しべや雌しべが入っているのである。
 よく見ようと、一本を手元へ引き寄せてみると、その小穂からほこりのような粉状のものが飛び散った。花粉だろう。イネ科の植物は、昆虫に頼らず、風任せの風媒花なのだ。おかげで昆虫を引き寄せるための美しい花弁もなく、魅惑的な匂いも無縁の、魅力的とは言い難い花でしかない。
 花と葉のついているものを一本折り取って持ち帰ってみた。調べてみると、どうやらこのササはスズタケのようだ。念のため、植物に詳しい埼玉県の生物の先生にも見てもらったところ、やはりスズタケだろうという答えをいただいた。
 ところで、竹やササの花の最大の謎は、その咲くタイミングである。
 60年に一度、花が咲いてそのあと枯れる− ということも聞いたことがある。何かの言い伝えが伝言ゲームのように広がっていったのだろうか。
 Web上には“スズタケは120年に一度花を咲かせ、枯れる”という情報が広がっている。その元々の情報源は何なのだろうか。
 スズタケではないが、「森林総合研究所における実生由来モウソウチクの一斉開花」(1998年・長尾精文・石川敏雄 森林防疫47)によれば、モウソウチクの種を蒔いてから67年後に一斉開花して枯れたという例が2例報告されている。種を蒔いた記録がしっかり残っていて、それが枯れたという記録が残っているのはとても珍しい例だろう。67年という数字が一致しているのは何やら説得力がある。
 しかし、具体的な例はこれしか見つからなかった。モウソウチク以外は一般的な説として60年〜120年と書かれていることがあるが、どうもはっきりとしない。スズタケに関しても、ある場所で一斉に枯れたことがあって、その後、同じ場所で120年後に一斉に枯れたことから120年周期説が生まれてきたようだが、種から芽生えたモウソウチクのような説得力には少し欠ける。さすがに、120年前にスズタケの種を植えました、という記録は残ってはいないだろう。本当に120年という周期があるのか、それとも何らかの刺激に対して開花という反応が引き起こされるのか…?
 オクヤマザサを研究した例では、同じクローンでも開花している部分と、開花していない部分があるということが報告されているし、チシマザサでも同様なことが判っているようだ。必ずしもクローンだから一斉に花が咲くとは限らないということである。
 はたして、スズタケは本当に120年周期で花を咲かせるのか?
 せっかく花をつけたスズタケだから、この種を採集して蒔いてみる、というのはどうだろうか。あと120年もすれば結果は出るはずである。





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