2017年5月
フデリンドウ



開花したフデリンドウ  2017.5.6.  榛名山西麓


 やわらかな淡い緑となった雑木林の林床に小さなリンドウの姿を見つけた。この時期に花を開くこのサイズのリンドウといったらハルリンドウかフデリンドウなのだが、ここではまだハルリンドウを見つけたことはなく、目にするのはフデリンドウばかりである。近づいてよく見れば、根生葉がないので、やはりこれもフデリンドウの方だった。
 わが家の林にフデリンドウが生えているということは、家を建てるための場所を確保するために木を切っていた2003年の春にはすでにわかっていた。ゴールデンウィークの休みを使って山の片づけに来ていたときに見つけていたのである。
 小さな花なので、気をつけていなければ見過ごしそうになるが、水色の花は、茶色い落葉の中にあれば見つけるのはそれほど難しくはない。
 それ以降、フデリンドウは毎年、季節になると林床で水色の小さな花を咲かせていた。花の数を数えたことはないが、年によって増えたり、減ったりという変化はあるようだ。フデリンドウに限らず、林の植物の勢力分布を見ていると、毎年毎年、変化していくものである。

 今年の花暦はとくに遅かった。多くの林の植物が絶えてしまったのではないか、と心配していると、忘れた頃になって、芽生えてきたり、いつの間にか花を咲かせたりしていたものだ。5月になって、その遅れを取り戻そうとしているかのように、フェノロジーは急加速してきた。
 フデリンドウは、といえば、その例にもれず、もう姿が見られる頃… と林の中を探し回っても一向に見つからず、これも絶滅か!?と心配していたひとつだった。
 ところが−。
 良く晴れて暑いくらいになったある日、昨年大きなハルニレとケヤキを切ったあたりに、ひとつの花を発見したのである。すると、不思議なもので、そのまわりに今まで見たこともないくらいの密度で、フデリンドウが花を咲かせているのが目に入ってきた。榛名山麓へやって来て以来、最多のフデリンドウの花が雑木林の一角に並んでいたのだ。
 しかし、こんなに咲いているというのに目に入らなかったというのはどうしたことだろう。
 それから何日か経ったある日。林のフデリンドウの様子を見に行くと、すぐ見つかると思っていた鮮やかな水色の花が見あたらない。花期が終わってしまったのだろうか…?
 このあたりだったはず…、と思って目を凝らせば、そこには花をすっかりと閉じたつぼみのような状態となったフデリンドウの姿があった。それは確かに筆の先を思わせる形で、「フデリンドウ」の“フデ”状態である。こうやって花を閉じてしまうと鮮やかな水色は内側に隠されてしまって、まったく目立たない姿となってしまう。
 厚い雲に覆われたその日、昆虫がやってこないと判断した(?)フデリンドウの花は休業状態になっていたのだった。これではわからないはずだ。そこにあるとわかっていれば探し出すことはできるが、水色の花のイメージで林床を見ていたらまず見逃しそうだ。フデリンドウを探すのなら晴れた日に限る。
 昨年、ケヤキとハルニレが切り倒されたあとにできた注目のギャップに、いち早く、目に見える形で応えてくれたフデリンドウは、太陽が消えると、まるで忍者のように姿を眩ます特技を持っていたのである。


曇りの日、閉店状態のフデリンドウ   2017.5.17. 榛名山麓






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