2017年5月
ブラックつぐみん



クロツグミ  Turdus cardis


 クロツグミという鳥がいる。黒い羽根と黒い斑点がちりばめられた白い腹部。そこに黄色いクチバシと黄色いアイリングが特徴的なポイントを与えているツグミと同じスタイルの小鳥である。この鳥をバードウォッチャーが見かけたら、双眼鏡を取り出すとか、カメラを向けるとか、何らかの反応を起こす確率は非常に高い。スズメやカラスやシジュウカラなどとは“格”が違うのである。
 声も素晴らしい。よく通る大きな声で、いろいろなパターンの鳴き声を披露してくれる。日本三大鳴鳥は、ウグイス・オオルリ・コマドリらしいが、クロツグミもけっしてひけは取らない美声である。バードウォッチャー憧れの鳥の1つ…と書いても間違いではないだろう。
 しかし、この地へやって来るまでクロツグミというものを見たことがなかった。図鑑に載っているなかなか見られない珍しい鳥、というくらいの認識だったのである。
 榛名山麓での最初の夏。林の中から聞こえてくる聞き慣れないいろいろな鳥の声は、いったいどんな鳥なのだろうという多くの謎を提供してくれた。今思えば、それはキビタキの声であり、サンショウクイの声であり、クロツグミの声だったりしたのだが、鳴いている姿とその声が一致するまでは半信半疑で、姿が確認できたときには大発見でもしたような気持ちになったものである。クロツグミのあのひと目でわかる姿も大発見の1つだったことは言うまでもない。
 それからもクロツグミは毎年のように林へやって来た。最初のころは姿を見つけられないような年もあったが、そんなときでも林の中からはあの大きな声が聞こえてきたから、やって来ていたのは間違いないだろう。
 そうしているうちに、バードウォッチャー憧れ(?)のクロツグミも、“あ、今年も来たね…”と最初の大発見から、ずいぶんとトーンダウンしてきた。キビタキとクロツグミは夏の常連として認められると同時に、少し“格”が落ちてきた感がある。
 さらに…。だんだんとその露出度も増してきたような気がしてならない。朝起きてみると、庭先にクロツグミが歩いていたりするのだ。その仕草は冬鳥のツグミとそっくりである。
 今年、渡ってきたクロツグミの姿を最初に見つけてから林の木々に葉が広がりきる前くらいの期間、クロツグミを見ようと思ったら、生ゴミを捨てているあたりで待っているのが最も確率が高かった。ツグミと同様に生ゴミを漁りにやって来ていたのである。ピザ窯でピザを焼いてみんなで食べた翌朝には、外のテーブルの所へさっそくおこぼれを拾いにやって来ていた。新緑の林のさわやかな風の中にいる高貴なイメージだったクロツグミなのに、イメージダウンこの上ない所行である。
 ところが、新緑に林が彩られ、見通しが悪くなってきたころから、その姿はなかなか見られなくなってきた。林の中から大きな声は聞こえてくるから、そこにいるのは判っているのだけれど、林の見通しの良い場所にも、生ゴミ捨て場にも、もちろん庭にも姿を現すことは少なくなってきた。
 渡ってきたばかりの頃は、今年のナワバリを設定するのに忙しく、“今年もやってきました。どーぞよろしく”…みたいな顔見せ期間だったかのようである。
 山麓ではシジュウカラをはじめとして、小鳥たちの子育てシーズン真っ盛りとなった。クロツグミも林のどこかで、きっと最も忙しい季節を迎えているのだろう。





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