2017年4月
2014JO25



小惑星・2014JO25の光跡
 とぎれとぎれの線状に写っているのが通過していった小惑星。画像の下から上へ移動していった。
 光跡が切れているのは、雲がない時の画像をつないでいるのと、5秒間のシャッターのタイムラグのため。


 恐竜の絶滅の原因は、巨大隕石の落下だった− という説が有力なものとして世間に広まってからすでに長い時間が経った。
 6500万年前、落下した巨大隕石が、ユカタン半島近くのメキシコ湾に巨大クレーターを作り、大津波を発生させ、さらに気象変動まで引き起こして、恐竜をはじめとする中生代の生物の多くを絶滅に追いやったという説である。
 衝突するまでには至らないが、地球をかすめていく小惑星はときどきある。小惑星の多くは火星と木星の軌道の間を公転していて、地球の軌道と交わらないため衝突ということはないのだが、ある種の小惑星は地球の軌道を横切って、地球軌道の内側まで入り込んでくるものがある。アポロ群とか、アテン群とか名前が付けられている小惑星のグループである。隕石の落下…小惑星の衝突はいつ起きてもおかしくない人類の生存を脅かす脅威の1つといえる。

 2017年4月19日、直径650m程度と見積もられる「2014JO25」と名付けられた小惑星が地球から180万kmのところをかすめ飛んでいった。
 2014年5月5日にアメリカ・アリゾナ州にあるレモン山天文台のスカイサーベイによって発見されたばかりの小惑星である。
 このことがNASAからアナウンスされたのは、最接近から2週間ほど前になる2017年4月6日のことだった。
 最接近のときの予想された明るさは11等級。これはもしかしたら自分の望遠鏡でも捉えられるかもしれない…。
 4年前の2013年2月16日、「2012DA14」という小惑星が地球上空27700kmのところを通過するという超ニアミスがあった。このときは月の視直径をわずか30秒で通過していくという猛スピードで空を駆け抜けていって、とても望遠鏡で捉えることはできなかった。それに比べれば今回の接近は180万km上空である。星図に示された1時間毎の位置を見ても十分捉えることができそうな感じがする。

 最接近の日、空は微妙な状態だった。どんな天体現象でも、上空を雲が覆ってしまったら為す術はない。
 仕事を早めに切り上げ、自宅へ帰り着いて空を見ると、全くの曇りというわけでなく、雲の切れ間から星の光ものぞいていた。最接近の時刻は日本時間で21時24分、経路は北の空を下から上へ抜けていくと計算されている。星座でいえばりゅう座からおおぐま座へ抜けていくコースだ。この小惑星の通過していく位置は、小屋にセッティングされている望遠鏡からでは北側の雑木林が邪魔をしていて見ることができない。
 そこで、庭の北の空の下の方まで見える場所に望遠鏡をセットすることにした。だが、悪いことに、以前に降った雨のために地面はぬかるんでいて、状況はあまりよろしくない。比較的良さそうな場所を選んだのだが、何とも不安定だ。
 セット完了後、星図に落とした位置と時刻を確認して、望遠鏡をその位置へ導いていく。北の空は赤道儀の構造上なんとも動かしずらい。自動導入装置などついていない赤道儀なので、ファインダーを覗きながら望遠鏡を振っていくのだが、西からやってくる雲が見ている空にかかるたびに導入作業は中断せざるを得ない。雲が通過していくのを、何もすることもできずに、ぼーっと見守るだけだ。晴れ間よりも雲の方が多いのだから、視野がクリアとなっている時間はとても貴重な時間となる。
 このあたりだろう、と望遠鏡の向けるべきを方向を定めたのは、望遠鏡を組み立て始めてから1時間以上を経過してからだった。もちろん、最初に目標とした場所ではなく、1時間後の予想位置にである。
 試しに2分の露出で写真を撮ってみた。赤道儀で恒星の動きに合わせて望遠鏡を動かしているので、普通の星は点として写り、天球上を動いている小惑星は線状に写るはずである。ところが、2分間も空は星空を見せてはくれなかった。晴れ間がきたと思ってシャッターを切っても、雲がまたたく間にその星空を覆い隠してしまう。特に北の空は雲の通り道になっているらしく、晴れているときよりも雲に覆われている時間の方が圧倒的に多かった。
 晴れ間が出てはシャッターを開け…雲が出てはシッターを閉じる、ということを何度か繰り返して、やっとのことで星空らしい画像が得られるまでにはさらに数十分の時間が経過していた。
 さっそくカメラのモニターを見てみる。するとそこには期待していたとおり、点像の星と、画面片隅に線状の光跡。この光跡が「2014JO25」だろう。
 頭の中にできていた画像は、星空の中を1本の光跡が横切っていくようなものだった。2分程度の間隔で露出をして得られた画像を、画像ソフトの上で重ねていけば、そんな写真ができそうだ…と思っていたのだ。そこで、小惑星を画面の端に位置して、移動していく方向を広くしたアングルにしようと、カメラの方向と望遠鏡が向いている方向を微調整してみた。そして、再びテストの2分露出…。
 ところが、これがなかなかうまくいかない。雲が通り過ぎる中で、画角を少し変えてはテスト撮影を繰り返したのだが、小惑星の動いていく方向と、画面の中の位置がまるでチクハグになって、考えたようにはなかなかうまく画面に納まってくれないのだ。焦って、さらにひどいことになってしまったり、時間だけがどんどんと過ぎていく。
 さらに、画像を拡大してわかったのは、星像がぶれていることだった。極軸がずれていたのか、それとも振動を拾っているのか、湿った軟弱な土の上に組み立てた望遠鏡のために沈み込んでしまったのか…?
 望遠鏡のガタを点検し、極軸をセットし直して、再びやり直し…。
 気がつけば、りゅう座で存在を確認した小惑星は、最接近の時刻をとっくに過ぎて、すでにおおぐま座の北斗七星の柄のすぐ先にまでやって来ていた。救いは雲がずいぶんと切れて、条件が良くなってきたことだ。
 ところが、夜明けにはまだ早いというのに、何やら空が明るくなってきた。現れたのは月齢22の○を半分に割ったようなやけに明るい月の出現である。暗い天体を見るには本当に邪魔な存在だ。まさに伏兵現る、である。
 こうして、ドタバタの悪戦苦闘はいつまでも集結せず、2014JO25 は地球からどんどんと離れていってしまった。





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