2017年2月
でぶみん現る!



でぶみん…? 写真では比較するものがないと大きさがわからない



 “でぶみん”という鳥がいる。
 一般の鳥の図鑑には載っていない。…いや、載っているのだが、“でぶみん”という名前ではない。“でぶみん”は標準和名ではなく、地方名…でもない。いわばニックネーム。標準和名では「ツグミ」という。バードウォッチャーの愛読書?「とりぱん」(とりのなん子・講談社 モーニング)に登場する太ったふてぶてしく動じないツグミを作者・とりのなん子がそう命名したのだ。ちなみに普通のツグミは“つぐみん”である。
 そのでぶみんが榛名山麓にも現れた。
 連れ合いも気がついたようで、どこで見たのか「大きな見慣れない鳥がいる」と言い出した。ツグミが見慣れない鳥であるわけがないのだが、最初、その大きさからツグミと結びつかなかったようだ。
 榛名山麓のでぶみんは、物事に動じないかどうかは別にして、通常のツグミに比べてひとまわりは大きく見える。連れ合いはハトくらいあると言っている。たしかに、一瞬見ただけでは小さなキジバトサイズ、と目測を誤りそうな大きさだ。
 ツグミの全長は、どの図鑑やHPを見てもたいてい24cmくらいとある。鳥の全長とは全身を伸ばして、クチバシの先端から尾の先までをいうのだが、定規で24cmを測ってみると、予想以上に大きく思えたりする。通常のツグミが24cmならば、このでぶみんは30cmはありそうだ。渓流釣り師言うところの“尺物”である。もちろん、あてにならない目の錯覚は大いに考慮しなければならないが…。
 これは個体差なのか…?
 餌台にやってくるたくさんのシジュウカラ、ヤマガラ、コガラを見ていると、確かに個体差が見えてくる。ヤマガラの中には、大胆に手の上に載ってきたり、窓の外でホバリングしたりしてエサをねだるようなのがいる。“おやぶん”と命名されたヤマガラは、“でぶみん”に似て、やはり他のヤマガラよりもひとまわり大きかった。大胆な奴はエサを獲得する量がやはり多いのだろうか。
 ヒトの場合、脳下垂体前葉から成長ホルモンが過剰に分泌されると、体が巨大化し、「巨人症」と呼ばれる症状になることが知られている。巨人症はホルモン異常だけではなく、染色体異常等が原因の場合もあるようだが、いずれにしても体が巨大化する。
 かつて、アンドレ・ザ・ジャイアントというプロレスラーがいた。46歳という若さで急逝してしまった彼のニックネームは“人間山脈”。
 公表されていたサイズは、身長223cm、体重236kg。巨人症だった。
 アンドレ・ザ・ジャイアントはフランス人だったのだが、フランス人男性の平均身長は175.6cmとある。フランス人の平均身長を100(%)とすれば、アンドレ・ザ・ジャイアントの223cmという身長は127.0(%)と計算できる。かなり強引だが、この平均身長の127.0%という比率をツグミに換算してみると、ツグミの全長とされる24cmの127.0%は30.5cmだ。ツグミの“巨鳥症”があるとすればこんな大きさになるのだろうか…?

 ツグミは秋の10月ころにシベリアの方から渡ってくるという。最初の頃は、群れで森や林の中にいて、人の目には付かないが、カキなどの果実が実るようになると人里へ食べにやってくるようになる。そして、いよいよ木の上に食べるものがなくなると、地面に降りてきて、地面にいる小さな虫たちを探すようになるのだとか。
 2月になって、ツグミだけではなく、カケスやシメ、そして餌台に集っていたカラたちも餌台に食べるものがなくなると、雑木林の林床で日がな落葉をひっくり返すようになった。窓から見ていると、あっちでもこっちでもカサカサと落葉が動いていて、目を凝らせばそこには小さな鳥を見つけることができる。鳥たちにとって食べ物が一番少ないこの季節は食べ物探しで一日が過ぎていくようだ。
 ツグミたちは早いものでは3月にはもうシベリアへ帰っていくものもいるという。広いシベリアのどこへ帰るのかわからないが、数千kmの距離を自分だけの力で飛びきらねばならない。渡りの季節を前にして、でぶみんも、つぐみんも、長い旅行に耐えられる体力を作るために、今、雑木林の落ち葉めくりに余念がないのだ。
 春はもうそこまで来ている。急げ、でぶみん!つぐみん!





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