2017年12月
小惑星ファエトン



ふたご座流星群の大流星  2017年12月14日 0:44ころ


 今年のふたご座流星群は月明かりの影響もなく、活発な活動を見ることができた。極大の予想時刻は12月14日の昼間の時間帯に当たってしまったが、それでも13日から14日の夜には一時間あたり60個ほどの流星を見ることができた。単純計算で1分間に1個の割合だが、空すべてを見ているわけではないので、実際はこれ以上の流星が流れていたことだろう。
 20世紀のころには、「21世紀には軌道の変化でふたご座流星群は無くなってしまう」という話もあったが、21世紀となった今、そんな話はもうどこにもない。今やペルセウス座流星群を凌いで、年間を通して最もコンスタントにたくさんの流星を出現させる流星群となったようだ。
 そのふたご座流星群の母天体は「小惑星・ファエトン」という。
 流星群の流星は、彗星が尾として宇宙空間にまき散らしたダストが地球の大気圏に突入してきたもので、そのダストを放出した彗星が母天体である。ペルセウス座流星群の母天体はスイフト・タットル彗星、しし座流星群はテンペル・タットル彗星、おうし座流星群はエンケ彗星、オリオン座流星群はハレー彗星…、と流星群と彗星は子と親の関係にあることが、それぞれの軌道を調べることで判っている。
 ところが、しばらくの間、ふたご座流星群の母天体は判っていなかった。そもそもふたご座流星群が認識されたのは20世紀になってからというから、若く変化の大きい流星群なのだろうが、その母天体が発見されたのは1983年のことだ。
 「1983TB」。
 赤外線天文衛星・IRASが発見したこの仮符号の小惑星の軌道がふたご座流星群の軌道と一致したというのだ。流星群の母天体は彗星である、というのが天文の世界では常識であるのに、それが小惑星というのは意外なことで、そのころ、星、とくに流星に関心を持っていた人たちの間ではそれはちょっとした話題だった。のちにその「1983TB」に与えられた名前が「ファエトン」。この小惑星はアポロ群と分類される小惑星の一つで、地球の軌道を横切り、水星の軌道まで横切って太陽に接近する軌道を持っている。このためギリシャ神話の太陽神・ヘリオスの息子の名前が与えられたのだった。
 その後、小惑星と思われていたこの天体には彗星状の尾のようなものが見つかったりして、小惑星というよりは揮発性物質がなくなってしまった彗星のなれの果てのようなものらしいということがわかってきた。

 その小惑星・ファエトンが地球に接近して明るくなるという。それもふたご座流星群の極大の頃にである。これは親子を撮影できるチャンスだ。もっとも、明るくなるとはいっても10等級よりも明るくなることはなく、肉眼ではもちろん無理である。写真で確認するしかない。それでも、ファエトンは天文台の大きな望遠鏡が相手にする対象だとばかり思いこんでいたから、こんな小惑星を撮影できるチャンスが訪れるとはこれまで考えてもいなかった。
 しかし、ファエトンはどこにいるのか…?大抵、何か珍しい現象が起こるとすれば、星空のどのあたりにそれが出現するという予想の図が示される。だが、天文雑誌にも、ネット上にもそれは見つけることができなかった。アマチュアの彗星研究者の吉田誠一氏のHPにごく大まかな移動経路の図があったくらいである。ふたご座流星群の予想はいくらでも見つかるのに、その母天体の情報はほとんど見あたらない。少々マニアックな対象すぎるのか。
 経路図がなければ作るしかない。
 彗星や小惑星の軌道は、軌道の大きさ、形、そして、地球が太陽の周りを回っている平面をいつ、どこで、どんな角度で横切っていくのか等のデータを計算することで示すことができる。具体的には、過去の観測から得られた天体の離心率・軌道長半径・軌道傾斜角・近日点引数… というたくさんの数値を使って計算するのだが、とてもそんなスキルはない。計算するのはパソコンとそのソフトだ。
 幸いファエトンの軌道要素はいくつかのHPで公開されているから、入力すべきデータはわかる。ブラックボックスのような天文の位置計算ソフトに数値を入力すると、一瞬で位置が計算された。
 ふたご座流星群の極大が過ぎた12月14日から翌日に変わる頃にはペルセウス座のアルゴルの近くにあって、球状星団・M34に向かって進んでいくようだ。
 
 帰宅後、空を見上げてみると、少し霞がかかったような透明度の落ちた星空があった。前日のふたご座流星群の極大の夜は抜群の夜空だったが、この日の空は微妙な様子だ。微光の天体を撮影するにはこの悪い透明度が大きなマイナスとして効いてくるかもしれない。だが、急速に移動する天体は急速に暗くなって、手の届かないところへ戻ってしまうかもしれない。
 望遠鏡を目的の場所へ導入する。M34とアルゴルが目安となるので、自動導入装置など無くても比較的見つけやすい場所だ。試しにカメラの感度をISO1600にして2分間露出してみる。だが、撮影したカメラのモニターにはそれらしいものは確認できない。それはそうだ、ターゲットは暗い点にしか写らないはずなのだから。
 やはり、写っているはず…と信じて、ファエトンがいるはずの場所を写すしかない。5分おきに2分間の露出をするようにカメラをセットして撮影開始だ。
 …だが。数カット撮影が進んだところで、空の状況はさらに悪くなってきた。空全体に薄雲が広がってきたようだ。普通、こんな状況では空にカメラは向けない。そのまま撮影を続けても10等級の明るさは写らないだろう。…あっけなく、断念。
 はたして何か写っただろうか。
 空の状態がそれほど悪くなる前の数カットに期待して、パソコンのモニターで撮影してきたばかりの画像を見てみる。
 すると、画面中央付近にそれらしい天体が写っているではないか。他の星が点像として写っているのに、それだけが少し伸びたような像になっている。これは、この天体が星空の中を移動していることを意味している。2分間の露出時間のうちに伸びて写る星像はかなりの移動速度だ。5分おきに撮影した画像を連続してパラパラと見てみると、その天体が星空の中を移動していく様子がアニメーションのように見える。それは薄雲が出て、空全体が白っぽくなった画面の中でも写っていた。予想以上の明るさのようだ。位置と移動方向からしてファエトンに間違いない。見事成功である。


小惑星ファエトン
 画面中央付近から左下へかけて移動しているのが直線状の破線として写った
2017年12月14日 23:02〜23:55にかけて5分間隔で2分間の露出で撮影
 

 今年のふたご座流星群は派手な流星をいくつも見たけれど、それ以上に、点にしか見えない地味な姿ではあるがその母天体を確認できたことは心が躍るような興奮があった。おそらく世間一般では、“それがどうした”で終わる見栄えのしない天体だけれど、名前は知っていても見たことがない、そして、それは見えないもの、と思っていたものを見つけた喜びは、たぶん本人以外誰にもわからない。マニアックだろうが何だろうが、子と親を見た2017年のふたご座流星群はこれまで見たふたご群の中で最高だったといえるだろう。





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