2017年11月
フクロウの巣箱の最後のお客様




フクロウの巣箱1号
底はすでに抜けてしまった

フクロウの巣箱2号
底は腐って穴が開いている


 林の中に2つのフクロウの巣箱を掛けたのは2008年11月のことだった。あれからちょうど9年。クリの木の上で風雪に耐え続けた巣箱もさすがに老朽化が著しく、一つは底が抜け、もう一つも底に穴が開いたような状況に朽ち果ててきた。
 フクロウを誘致しようと掛けた巣箱だったが、中に入ってきたのはテン、ムササビ、ニホンリス、シジュウカラといった面々で、ついに本命はやって来てはくれなかった。それでも林の中にできた大きな空洞は動物たちに大いに利用され、こちらもずいぶんと楽しませてもらったものだ。
 そんなボロボロの巣箱に異変が起こっているのに気がついたのは秋もずいぶん深まってきた頃だった。底が抜けているような巣箱では、動物が入ってくることなど考えもしなかったので、この夏以降はあまりフクロウの巣箱には注目していなかったのだが、ふと穴の中を見ると何かいるようだった。丸い何かの頭があるようにも見える。
 近づいて見上げて見る。が、影になって何だか判らない。もう一度離れて、双眼鏡を使って眺めてみると、やはり何かいる。…いる?いや、何だか動いていないようだ。
 しばらく見える位置から双眼鏡で確認していると、どうやら正体がわかってきた。なんと、スズメバチの巣らしい。動かないわけである。
 太陽が高い場所にある夏の季節には巣箱の穴の上方から光が届いているため、穴の内部の様子は影になってよく判らなかったのだが、太陽高度が低い秋になって、巣箱の内部へと光が届くようになって、姿を現してきたのだった。もっとも、夏の頃はまだまだ小さな巣だったのかもれしないけれど。
 巣の中にはまだ生きているのがいるのだろうか?スズメバチの仲間は寒い季節になると来年の女王がどこかで越冬するために巣を離れ、働きバチたちはそのまま死んでしまう。秋の頃大きくなった巣は、来年はもう使われることなく、これも朽ちていくだけである。
 もう一度巣箱の下まで行って、巣穴を眺めてみる。出入りしている働きバチは見えない。夜になれば氷点下まで下がるこの季節、やはりもう放棄された巣なのだろう。
 

巣箱を覗き込むとこんなものが…

巣箱を下ろし、中を開けてみた
スズメバチの巣の下にはスギの皮

 11月の寒さが緩んだある日、9年目の巣箱をはずした。
 ハシゴを掛けて巣箱まで上がってみると、老朽化は想像以上に進んでいた。次の巣箱に使える部分もあるかも…と思っていたが、とてもそんなわけにはいきそうもない。
 地上に降ろされた巣箱の中にあったスズメバチの巣は直径約30cm、高さ約29cm。球形に近い。巣箱を落としたときの衝撃で剥がれ落ちてしまったが、巣箱の屋根の裏側にあたる部分にはくっついていた痕跡が残されていた。
 巣箱の下の方には大量のスギの皮が細長くちぎられ、丸められてあった。これはスズメバチが作ったものではなく、おそらくニホンリスが巣として利用していたものだろう。今年の春先、この巣箱の中や、この周辺でニホンリスがよくチョロチョロしていたから、あのリスが作り上げたものである可能性が高い。リスくらいの体重ならば、この底に穴の開いた巣箱でも何とか持ちこたえることができたはずだ。
 しかし、せっかく作り上げたスギ皮の巣だったのに、後からスズメバチがやって来てしまっては明け渡すしかなかったことだろう。リスにとっては迷惑な話だ。
 その細かく裂かれたスギの皮の中にはいくつものスズメバチの死体が落ちていた。キイロスズメバチだった。
 昨年はNさんのヤギ小屋の軒下、その前年は雑木林の木の幹、と、秋になると毎年“実はここにありました”と姿を現すのがこのキイロスズメバチの巣なのである。今年は例年にもまして思わぬ場所に姿を現したといえよう。
 もう利用価値はなくなった… と思うほど朽ち果ててしまった巣箱だったが、最後に団体様一行をお迎えしていたのだ。スズメバチだったとはいえ、最後まで利用するものが存在していたというのは何やら嬉しいものである。

 これにて、初代フクロウの巣箱のお宿は閉店(?)。新館のオープンまでしばしの休業である。





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