2017年11月
ハタケヤマヒゲボソムシヒキ




コナラの幹でじゃれあう?ハタケヤマヒゲボソムシヒキ
左がメス 右がオス



 晩秋の陽だまり。11月の榛名山麓は陽の光が当たらないところでは肌寒さを覚えるが、風のない陽だまりは快適な癒し空間となる。
 そんな暖かい陽光が差し込んでいる雑木林の縁には、毛むくじゃらのアブが憩うように姿を現すようになった。翅にこそ毛は生えていないが、顔、腹部、脚…といった体のほとんどの部分に茶色っぽい長い毛がびっしりと生えている。ハタケヤマヒゲボソムシヒキ  Gyrpoctonus hatakeyamae である。よく似た毛むくじゃらのアブにアイノヒゲボソムシヒキという種類がいるが、こちらは、後脚の脛節の毛が白いという特徴があるとのことで、毛むくじゃらのアブを見つけるたびに後脚に注目して見るのだが、アイノヒゲボソムシヒキらしいものは見あたらず、見かけるのはハタケヤマヒゲボソムシヒキばかりだ。
 ハタケヤマヒゲボソムシヒキは「ムシヒキアブ」として広くまとめられるアブの一種である。アブは双翅目(ハエ目)の中の1つのグループだが、花に集まって蜜をなめるハナアブの仲間や、吸血をするウシアブのような仲間など、いろいろなものがいて、ムシヒキアブの仲間は主に他の昆虫などを襲って体液を吸う肉食系である。
 夏の間、このあたりの雑木林でよく見かけるムシヒキアブの仲間は、シオヤアブ・マガリケムシヒキなどで、ハタケヤマヒゲボソムシヒキよりもずっと大きく、いかにも狩りをするぞというような風格を持っている。それに比べて、ハタケヤマヒゲボソムシヒキは、体長15mmくらいの小型で、大きな丸い眼が目立つ茶色い毛むくじゃらの姿は、どこか可愛らしい姿にも見える。他の昆虫を襲う、と判っていてもあまり凶暴性は感じられず、見る人にもよるのだろうが、どちらかといえば癒し系の姿なのである。
 陽だまりで体が温まってくると、ブ〜ンと飛び立つようになる。あちこちを飛びまわるというわけではなく、少し飛んでは別の所へ移動するくらいだが、お気に入りの場所があるらしく、またすぐに同じ場所に戻ってくることが多い。1頭が飛び立つと、少し離れた場所からもう1頭が飛び上がり、すぐ近くにそろって着地することがよくある。そんなときは、着地すると直ぐにお互いの顔をつきあわせるように正面を向いて向き合っている。この行動はなわばり争いなのか、それとも求愛行動なのか…?
 おおよその判断として、ハタケヤマヒゲボソムシヒキのオスの翅は腹部の先端よりも短く、メスの翅はオスよりも長く腹部の先端を越えるという。そんな眼で相対してるアブたちを見てみると、2頭はオスどうしではなく、オスとメスのようなので、これは求愛行動と見るのが正しいのだろう。
 そうやって、顔と顔をつきあわせているかと思うと、1頭がそれほど長くはない2つの前脚振り上げ、相手の顔の付近を触り始める。そうすると触られた方も同じように前脚を振り上げるようにしている。毛むくじゃらの2頭が向かい合って前脚を振り上げている姿は、まるでじゃれ合っているようでどこか微笑ましい。
 しばらくそんなことをやっていると、どちらか(おそらくメスなのだろう)が飛び立ち、少し離れた所へ飛んでいく。そして、残されたものはそれを追って直ぐに飛び立っていく…。
 山麓で日がな繰り返されている秋の陽だまりの光景である。





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