2017年1月
雪の雑木林にリス現る



ニホンリス  Sciurus lis    2017.1.24. 榛名山西麓


 1月8日から降り始めた雪は一夜にして風景を一変させた。それまでの落葉の雑木林は雪の白を基調としたより明るい林へと変わり、その分、木々の黒さは一層コントラストを強めた。
 根雪になるのでは…、と心配されたその雪は、冬の弱い陽光にわずかずつではあるが溶け、数日すると所々に林床の落葉が顔を出すまでになった。もちろん、日陰には全く溶けた様子もない真っ白な雪が残ったままである。だが、落葉の地面が広がりそうになると、再びの降雪。何度かそんなことが繰り返された。結果的にやはり風景を変えた8日の雪は、根雪だったようだ。
 そんな白い雑木林の林床を、小さな黒い塊がスルスル…と動くのが遠くに窓越しに見えた。キジのようなあまり飛ばない鳥が地面を走ることが良くあるが、その動きはもっとシャープな、そして、もっとしなやかなものに思えた。すぐに、近くにあった双眼鏡を手に取る。リスだ。
 白い雪の上を飛ぶように走っていく。つながれていた飼い犬がリードを解放された瞬間のような走りだ。白い雪面に動く黒い物体はとても目立って見える。
 今までにもこのあたりでリスを見かけたことは何度かある。哺乳類の多くは夜行性だから、キツネやタヌキやイノシシやウサギなどを目撃するのはクルマに乗っているときに、ヘッドライトに照らし出されることが多いけれど、リスを見るのはいつも明るいときだ。それも午前中が多い。林の中に設置した自動カメラに写ってきたときも早朝の時間帯だった。リスは哺乳類としては珍しく昼行性なのだ。とはいえ、いつでもリスが見られるわけではない。他の動物と比べてみて、これまでの目撃例・遭遇例からすればイノシシやキツネの方が多い。
 ところが、今年になって、立て続けにリスの姿を見た。
 最初の目撃はフクロウの巣箱の入り口。またムササビが顔を出しているのかと思ってよく見れば、クリをくわえたリスだった。まだ落葉の林床だった1月5日のことである。
 そして20日ほど経った1月24日の朝。そしてその翌日。
 雪の中を走り回るリスを見つけるのはそう難しいことではない。一度見失っても、雑木林を眺めていると動くものは優先的に眼に飛び込んでくる。これまでもこんなふうに雑木林の林床を飛びまわっていたのだろうか。たしかに、雪の無い林ではリスくらいの大きさのものが動いていても気がつかないかもしれない。
 猛然と走り回るリスの様子を双眼鏡で追っていく。耳の先はピンと立ち、腹は白。縞模様などない。ニホンリス−Sciurus lis− だ。ちょっとホッとする。
 最近は本来いるべきはずのニホンリスではなく、移入種のタイワンリスやシマリスが幅を利かせるようになってしまった地域も知られている。鎌倉や伊豆大島のタイワンリスなどはすっかり定着してしまっているし、榛名山でもオンマ谷で本州にいるはずのないシマリスの仲間を撮影したことがある。外来種の問題はリスの世界にも起こっているのだ。
 雪の林床を走るリスの尾は特徴的だ。ただでさえ大きく目立つ尾をピンと真上に持ち上げて疾走する姿は、背中に旗指物を立てて戦場を走りまわった戦国時代の騎馬武者を彷彿とさせる。そんな姿で雪の上を走っていったかと思うと、落葉の出ているところで止まって、落ちていた栗のイガをあさり始めた。そして、しばらくそのイガと格闘したあとで、中からクリの実を取り出すのに成功したようだ。
 リスは意味もなく走り回っているのではなく、食料確保に必死なのだ。雪に覆われてしまっては食べ物を探すことができないため、雪のないところを求めてやってきたというところだろうか。
 雪の上を走るところが見つけやすいということは人間だけのことではなく、リスの天敵にしても同じことがいえるかもしれない。
 天敵 − キツネ、テン、猛禽類… そんなものたちの眼がどこで光っているかわからない。リスの現れた1月24日、家の前の電線には猛禽のノスリが留まっていた。その翌日には、久しぶりにフクロウの姿も見つけた。リスの走り回る林の中は、彼らにとって危険がいっぱいだ。
 野生のリスの寿命はわずか2〜5年という。このやけに露出度の高いリスは、この冬を生き延びられるのだろうか?
 まだしばらくの間、リスにとっても試練の冬が続く。





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