2016年6月
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榛名山西麓は少し古い火山性の堆積物が形成する山麓扇状地で、緩やかな傾斜地となっている。山頂の方から下る沢もまだそれほど深い谷を刻むことなく、その流れは穏やかである。なんとなくのんびりした地形は、耕作地や牧草地となっていて、ゆるやかな時間が流れているようだ。そんな斜面にはいくつかの農道が通っていて、晴れた日の散歩には絶好の場所を提供してくれる。 梅雨の晴れ間のある日、そんな山麓へカメラを片手にあてもなく出かけてみた。 家を出てすぐの畑では80歳を過ぎたというIさんが畑仕事に精を出している。このあたりの畑で仕事をしている人たちの平均年齢は驚くほど高くて、60歳くらいではまだ若手に分類されることだろう。 Iさんの耕作地もやはり傾斜地で、一番低いところには沢が流れている。そこから道路へ向かって緩やかな登りの斜面が続いていて、一番低いところには田んぼ、そして、少し高くなったような場所から畑となっていて、ビニールハウスもある。 “百姓では食っていけない”“もう歳だから… ” などと、口癖のように言ってはいるIさんだが、耕作地は手入れされていて、いつもきれいだ。 道路はその耕作地の上を通っているので、道沿いに立つとIさんの土地は眼下に広がったように見える。そこから、遠くで作業をしているIさんの姿をしばらく眺めていると、ふと、その手前に丸まって寝ている動物がいるのに気がついた。このあたりにはノラネコもたくさんいて、ときどきIさんの周囲をまとわりついていたりすることもあるが、その大きさはネコではなかった。 道路沿いに一番近づけるところまで歩いていって、望遠レンズでのぞいてみた。大きな耳が見える。そして、尖った鼻筋。Iさんのところにはイヌもいるけれど、人が近づくと犬小屋の中に入ってしまって出てこないような臆病な性格で、Iさんがリードをはずして放すようなことはたぶんない。 もしかして、これはキツネ…?
彼(彼女?)は黒いマルチシートが敷かれた畑の上でのんびりと丸くなっていた。道路からの距離はおよそ30m。その向こうには、気がついているのか、いないのか、Iさんがいる。キツネとの距離はやはり30〜40mくらいだろう。 キツネは丸くなったまま、顔をこちらへ向けた。なんだか迷惑そうな顔だ。だが、立ち上がろうともせず、姿勢はそのままである。 それにしても、キツネという奴は畑の真ん中で昼間堂々と寝ているものなのだろうか。もう少し人の目につかないようなところで、こっそりと昼寝しているとばかり思っていたのに…。 しばらくの間、何か動きはないかと思って様子を見ていた。だが、こちらに気がついたものの、彼はそのままそこに丸まったまま、再び眠りについてしまったようだ。Iさんが近づいてくれば逃げることもあるだろうが、そんな様子もない。 後日、Iさんに聞いたところ、畑のキツネとは顔見知りのようで、その行動はよく把握しているらしかった。 山麓の畑におじいさんと眠りこけた子ギツネ。「日本昔話」のようなのどかな榛名山麓の風景である。 |
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