2016年5月
アズマオオズアリ



ムネアオオオアリのまわりをとりまくアズマオオズアリ-Pheidole fervida -
2016.5.24.  榛名山西麓



 すっかりコケに覆われたアカマツの倒木の上をムネアカオオアリが忙しそうに歩いているのが見えた。体長2cmはありそうな巨大アリである。しゃがみ込んで見てみると、倒木にはいくつもの穴が開いていて、その中の1つに彼女は消えていった。倒木の中はムネアカオオアリの巣になっているのだろう。
 そして、よく見れば同じ倒木の上には死んだムネアカオオアリも横たわっていた。死因は判らないが、彼女にとって不幸な事故があったようだ。
 ところが、死んでいるように見えたムネアカオオアリだが、風のせいなのか微かに動いているようでもある。まだ完全には死んではいなかったのだろうか。
 顔を近づけて見ると、ムネアカオオアリの周りには別の種類の小さな赤いアリが群れ集まり、この巨大なアリの死体をエサとして運ぼうとしているのが見えた。体長は2〜3mmといったところで、ムネアカオオアリの大きさに焦点を合わせていると、節穴の眼には認識されてこないような大きさである。「ガリバー旅行記」のガリバーとリリパット国の小人たちのようだ。
 しばらくの間その様子を見ていたのだが、ムネアカオオアリの位置は全く動くわけではなかった。小さな赤いアリはムネアカオオアリの上に登ったり、下にもぐり込んだりしているのだが、どこかへ引っ張っていこうというわけでもなさそうなのだ。あまりの大きさに手を焼いているというのだろうか。
 やがて、その理由が判った。横たわったムネアカオオアリの下の小さな穴から、大きな牙のような大アゴを持った赤いアリが大きな頭をのぞかせてきたのだ。それまでムネアカオオアリを取り巻いていた赤いアリたちよりも一回りも大きい。これが、ムネアカオオアリの頭部と腹部の細くなっている部分を挟んで、自らが出てきた穴の中へ引きずり込もうと引っ張り始めた。別に他のアリたちも争うわけでもないので、エサを横取りしようというのでもなさそうだ。むしろ、手こずっていたところへ力強い援軍が出てきてくれて助かったという様子だ。ムネアカオオアリの巣穴の隣には、この小さな赤いアリの巣があったのだ。倒木にたくさん開いている穴は、どれがムネアカオオアリで、どれがこのアリたちの入り口なのか、当人たちはきっと判っているのだろう。
 だが、どう考えても、開いている穴の大きさとムネアカオオアリの大きさを比べると、この中に引き吊り込むのは無理がありそうだ。解体しなければとても収容しきれそうにはない。
 …発見から約1時間。食事の声がかかってしまった。「アリを見ているから後にして…」とはとても言えない。仕事にも出かけなければならない。このアリたちの行動は時間が読めなかった。あのアンリ・ファーブル先生なら食事は後にしたことだろうが…。

 食事の後で現場へ戻ると、ムネアカオオアリも、それを取り巻いていた赤いアリたちもすっかり姿を消していた。倒木の上の出来事はすべて終わっていたのだった。状況からして、何とかして巣の中に引き吊り込まれたのだろう。


 働きアリ

兵アリ


 後で、採集しておいた赤いアリを実体顕微鏡でのぞいてみた。体長は約2mm。これは働きアリだろう。そして、一回り大きい特徴的な大きな頭と大アゴを持ったアリ。小さな働きアリと比べてみると、とても力強く見える。それをそのままの姿で大きくすれば、円谷プロも絶賛しそうな怪獣の姿である。そういえば、アリジゴクのような姿をしたアントラーという怪獣もいたっけ。これは「兵アリ」と呼ばれるタイプのようで、こんなのがいるのはオオズアリの仲間になる。そうすると、色と大きさからしてアズマオオズアリとヒメオオズアリが有力候補だ。図鑑を見ると、働きアリの大きさはアズマオオズアリが2.5mm、ヒメオオズアリが1.5mmとある。採集してきたアリは約2mm。微妙なところだ。だが、分布を考えれば、アズマオオズアリとするのが正解だろう。
 手こずっていたムネアカオオアリは、兵アリのあの大きな大アゴで解体して中に運び入れたのだろうか。いいところで見せ場を見逃したようだ。






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