2016年5月
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エドヒガン、チョウジザクラ、ソメイヨシノ… と約1ヶ月続いた榛名山麓の桜もカスミザクラを最後に今年の花は終わりを告げた、と思えた。山頂付近にはまだ花をつけた桜の木も残っているが、花見の旬はとっくに過ぎているという感じである。 榛名山麓に移り住んで13年目の春。 昭和40年代には栗畑だったというクリの木々は、今や野生化したようになり、老木となって立ち枯れも目立つようになってきた。枯れて倒れたクリの場所や、陽当たりの良くなった場所には、カエデやヤマグワや桜が実生で育ち、新しい雑木林が形成されつつある。中でも桜の若い木は何本もクリの老木の脇からすっと立ち上がり、世代交代を告げているようである。 数年前から、それらのうち何本かが手の届かなくなった遙か上空で花をつけ始めた。最初に花を見せてくれたのはカスミザクラだった。そして、続いてまたカスミザクラ…。新しい雑木林の桜はカスミザクラばかりなのだろうか、と思わせるような展開である。 そんな林の中で、連れ合いが今年になってウワミズザクラを見つけた。それまで花をつけなかった木に特徴的なつぼみがついているのを発見したのである。ウワミズザクラは桜とはいいながら、ソメイヨシノのような花ではない。総状花序とよばれる花の付き方でその姿は大型の白い試験管ブラシのようである。 そのウワミズザクラが他の桜たちが終わった後で、一斉に花を開いた。家の周りの林を見れば、それまで花が咲かない桜の木だな…と思っていた木々の枝先にも白い総状の花がついている。家の裏には大きなウワミズザクラの木があって毎年の花をつけていたので、この木の子供達かもしれない。 そして、榛名山麓をクルマで走ると、林の至るところに白い花が目に入ってくる。近づいてみれば、みんなウワミズザクラの花だ。榛名山麓のウワミズザクラが示し合わせたように一斉に花開いたようである。 毎年毎年、季節は巡っているのに今までこんなに身の回りにウワミズザクラがあったことに気がついていなかった。それとも、今年はとくにウワミズザクラの花が多いのだろうか。 ウワミズザクラには“アンニンゴ”の別名がある。ウワミズザクラの若い花穂や未熟の実を塩漬けにしたものを「杏仁子・アンニンゴ」と呼んで食用にするのだとか。新潟が本場というが、これを聞いたのは栃木でのことだったから、各地で食べられているのだろう。このアンニンゴはそのまま食べるだけではなく、テンプラとしても良いようで、まだ体験したことのない味覚に興味津々である。また、真偽のほどは判らないが果実酒は不老長寿に効くとも。ウワミズザクラの葉から強力な抗酸化物質が見つかっているというから、もしかしたら本当に不老長寿の薬になるのかもしれない。 つぼみの状態で採集するのはすでに手遅れとなってしまったが、まだこれから実になってからもアンニンゴとして食料にするチャンスはある。 桜がたくさん生えてきた、と喜んでいた連れ合いは、その桜が桜の花のようではないウワミズザクラと判って、少々ガッカリしたようだが、アンニンゴが杏仁豆腐のような香りを振りまいて、味覚で名誉挽回できるだろうか。 今年は豊作の予感である。 |
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