2016年11月
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晴れれば鮮やかな紅葉の景色となるはずの榛名湖は、その日、あいにくの曇り空だった。それもかなり厚い雲が上空を覆い、薄暗くさえ感じられる曇りである。赤や黄色に色づいた落葉樹の葉もいまひとつ冴えない。湖畔の雑木林を行くと、ミズナラやカエデの仲間をはじめとする明るく色づいた木々が、空の暗さを打ち消すかのように葉を広げ、あるいは風に葉を散らせていて、たたずまいはすっかり晩秋となっている。 そんな雑木林の降り積もった落葉のすぐ上あたりをヒラヒラと小さな白っぽいものが飛んでいるのが見えた。 この季節に、その弱々しい下手くそな飛び方を見れば、まず頭に浮かぶのは冬の蛾・フユシャクである。フユシャクの仲間は、オスは普通の蛾や蝶のように飛ぶけれど、メスは翅が退化してしまって飛ぶことができない。そのため、飛んでいるオスを見ることはあっても、メスを見るのは容易なことではない。以前、フユシャクのメスを探して、あちこち探し回ったけれど、これまでに見つけたフユシャクの仲間のメスはたった2頭のみで、それも種名までは突き止められなかった。 しばらくの間ヒラヒラと飛んでいた蛾の後を追っていく。どこか遠くまで行ってしまうこともなく、高く飛び上がって行ってしまうわけでもないのだが、なかなか止まってくれずにヒラヒラヒラヒラといつまでも林床の上を飛び回っている。その飛び続けるエネルギーは大したものである。それでも、辛抱強く後を追っていくと、やがて落葉の上に着地してくれた。 そっとのぞき込む。薄茶色の翅をひろげて小刻みにふるわせている。翅には真っ直ぐな濃い茶色の外横線。中横線や内横線はそれに比べて薄く、あるのか無いのか判らないくらいだ。チャバネフユエダシャク…?それとも…? その場では、正体は判らなかったが、やはりフユシャクの仲間のようだ。 さらに雑木林の中を行くと、同じような蛾があっちにも、こっちにも、ヒラヒラヒラヒラ… と飛びまわっている。 フユシャクのメスたちは、飛べない代わりに性フェロモンを出して、オスたちを誘導するのだとか。このオスたちの“乱舞”の様子は、まさにメスのフェロモンに引き寄せられてきたオスたちが、その発生源を探して飛びまわっているように見える。 これはメスを見つけるチャンスかもしれない! だが、ヒラヒラ飛ぶオスの近くにある木の幹周り・枝・落葉の上など、メスがオスを待っていそうなところをゆっくりと時間をかけて探しまわったけれど、見つからない。 こちらがあちこち見つけているときにも、オス達はそのまわりをヒラヒラ飛び続けている。オスたちも目標にたどり着けないのだろうか。 そうやって1時間ほど探したが、結局、メスにはたどり着けなかった。いったいメスはどこにいるのか。単純に考えれば、この飛びまわっているオスの数と同じくらいのメスがいてもよさそうなものなのだが−。それとも、そもそもこの蛾たちはフユシャクではないのか…? いくら探しても見つからない状況に、根本的な疑いさえ生まれてきた。一度懐疑心が生まれてしまうと、根気が少しづつ奪われていく。 結局、なんともすっきりしない結果のまま帰宅。さっそく撮影してきた写真をもとにして調べてみると、それはクロスジフユエダシャク−Pachyerannis obliquaria− と判明した。やはりフユシャクの仲間だったのだ。 愕然としたのはその後である。同じ場所でたくさん撮影したクロスジフユエダシャクの画像を見ていくと、なんとそこにメスの姿があったのだ。それは木の幹にとまっていたところを写したものだった。もちろんオスである。撮影したときにはオスの姿しか見えなかったのだが、実はそのお尻にはメスがくっついていたのだ。あり得ないような話だが、我ながらビックリするやら呆れるやら… である。おまけに、その写真はブレていて、構図もメスを意識していないので、メスは画面からはみ出していて、とても見られるような写真ではなかった。 |
あれほど探したつもりだったのに、そして、視線の中に入っていたはずなのに、さらにカメラの写野の中にまで入っていたはずなのに…。 以前からうすうす気づいていたが、“節穴”を再認識させられたちょっと悔しいフユシャク探しの結末だった。 |
あれ?! メスが写っていた! の写真 (上の黒っぽいのがメス) |
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