2015年4月

ニセクロホシテントウゴミムシダマシ



ニセクロホシテントウゴミムシダマシ  Derispia japonicola
2015.4.24.  榛名山西麓



 3月の終わりから4月の始めにやった糖蜜を樹木の幹に塗りつけて昆虫たちを誘い集めようというトラップは、最初のそれがあまりに効果的だったので、再現を期待して二度、三度と繰り返したのだが、結果は散々なものだった。
 それでも、もしかしたら…、とだんだんと期待は薄くなりつつも機会を見つけては、夕方になると同じ場所に昆虫ゼリーをスプーンですくっては置き続けた。同じようにやって何も来ない、というのもデータとしては意味がないわけではない。

 ある夜のこと。ライトを片手にいつものように糖蜜を塗りつけた樹木を見て回っていると、幹にできた割れ目の中にライトの光を反射する小さな何かを見つけた。小さな半球形のような形からして水滴がついているようにも見えた。だが、近づいてよく見ると、水滴などではなかった。茶色の地に長細い黒い点紋、直径2〜3mmくらいの半球形の形にそんな模様がついている。体長2〜3mmの丸い甲虫だった。テントウムシを小さくしたような姿である。
 明るい室内に戻って、撮ってきた写真をもとにして正体を調べてみると、名前が判明した。
 「ニセクロホシテントウゴミムシダマシ」。
 なんと17文字も使った長い名前。これはこれまで見てきた生物の中で最長の名前である。いったい、これはテントウムシなのか、テントウムシダマシなのか、ゴミムシダマシなのか…?
 何度か17文字のカタカナを読み直して、どうやらこれがゴミムシダマシの一種であろうということは理解できた。
 学名はDerispia japonicola 。学名の方はいたって普通である。分類上は甲虫目、カブトムシ亜目、ゴミムシダマシ科、テントウゴミムシダマシ亜科になる。
 それにしても、ひとつの名前の中に「ニセ」と「ダマシ」が使われている種名とは。当の本人(?)が知ったらどう思うことだろう。相当な詐欺師のようである。
 この「ニセ」はその後に続く「クロホシテントウゴミムシダマシ」にかかっている。クロホシテントウゴミムシダマシのニセ者という意味である。クロホシテントウゴミムシダマシは見たことがないのだが、比較した解説によれば、前胸部背面の基部中央(翅の付け根付近)に黒い部分があればニセクロホシテントウゴミムシダマシ、茶色だったらクロホシテントウゴミムシダマシなのだそうだ。「ニセ」に対して「本物」はクロホシテントウゴミムシダマシになるが、生物学的にはおそらくあまり意味はない。たまたま先に名前がついたのがクロホシテントウゴミムシダマシの方で、後で似たのが発見されて「ニセ」の名前を冠せられたというところだろう。
 最後につく「ダマシ」の方は「ゴミムシダマシ」という甲虫の仲間には広くつけられているもので、「ゴミムシのような奴ら」といったところか。こんな仲間が世界では16000種類もいるのだという。「ゴミムシ」にしても「ゴミムシのような奴ら」にしてもこれも本人達(?)にとってはひどい名前である。
 「ニセ」「ゴミ」「ダマシ」と三重苦のような、そしてなかなか一度では覚えきれないような長い名前をもらってしまったけれど、雑木林のどこかでひっそりと生きている彼らにとっては、人間世界が決めたことなど全く意味を持たないことは言うまでもない。だが、こんな名前を付けられてしまったことで、我々のようなごく一部の人間に限られるけれど、見つけたいと注目する人が出てくるのもまた事実である。平凡な名前であったならば、ほとんど無視されるような存在だったのに、人目につきたくない彼らにとって、やはりこれは不幸な名前だったといえるかもしれない。





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