2015年2月
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つぼみを食べるウソ 2015.2.9. 榛名山西麓 |
ウソがやってきた。 赤色の頬が鮮やかなオスだ。メスにはこの赤い部分がなくて、それほど目立つ姿ではないのだが、オスの赤い色は目を引きつける。 窓越しに見える梅の枝にいつの間にかとまっていたのだった。この季節、ここの梅はとてもまだ咲きそうもない硬いつぼみをつけている。見ていると、彼はその梅のつぼみを嘴でちぎるようにして食べていた。早春のウソの好物は梅や桜のつぼみなのだ。 大して食べる部分もなさそうなつぼみをちぎっては食べ、その残りが下へボロボロと落ちていく。当たり前だが、食われてしまったつぼみはもう咲くことはない。 「あ〜あ…」ウソ発見!の報せで窓際にやって来た連れ合いが嘆いた。 しばらくその様子を見ていると、もう一羽、少し離れた枝にウソの姿を見つけた。こちらも赤い顔のオスである。ベランダに出てみると、それまでいた梅の枝から、少し離れたエドヒガン(山桜の一種)の方へパッと飛び移っていった。すると、そこにはもう一羽のオスがいて、すでにエドヒガンのつぼみを同じように食いちぎっているのだった。 近づいても逃げようとしない。山道でウソに出会ったときにも相当近くまでやってきた記憶があるから、シジュウカラやコガラなどのカラ類と同じくらい警戒半径は小さいのかもしれない。目立つ色の割にかなり神経は太そうだ。 オスばかり3羽。ささやくような声で何事かを鳴き交わしながら少しずつ移動してはつぼみをつまんでいく。発信源がわからなければ、その声は遠くから聞こえてくるようにも聞こえ、実はとても近いところにその主がいたということがわかったときに、その近さにびっくりするのである。そもそも「ウソ」の名前は古語の「嘯」(=口笛)からきているとのことで、その小さな鳴き声にもかかわらず印象的な声である。 鮮やかな赤い色彩を持ち、印象的な鳴き声のウソは、いれば無視できない鳥である。ホオジロやスズメなどの地味な鳥とは、その存在感において一段上のランクにいるような感じだ。 しかし、その好印象の外見とは対照的に、これから咲こうとしている花を摘んでしまうという悪行は見ている人間に複雑な感情を引き起こす。ウソはきれいだけれど、桜や梅の花も見たい…。 ウソのオス3羽は徒党を組んで2日間にわたって庭のソメイヨシノ、梅、雑木林のエドヒガンのつぼみを食い散らかしていった。その被害は如何ばかりか…? だが、それで終わりではなかった。 それから12日後。彼らはまたやって来た。赤い顔のオス3羽に加えて、1羽のメス。おそらくオスは以前やってきた3羽だろう。そして、どこで見つけたのかメスを1羽連れてきた。あるいは、メスがオス3羽を引き連れてやって来たのか? ここに美味しいつぼみがあるということはすでに彼らの頭の中にインプットされているに違いない。山桜の仲間は他にもあるから、あっちこっちとそんなポイントを食い散らかしながら移動しているのだろう。 このままのペースで食われ続けば、庭のソメイヨシノも、ベランダのすぐ前の梅も、家の脇のエドヒガンもほとんど花をつける前に食われてしまうかもしれない。 ウソが桜のつぼみを食ってしまうのは「食害」とまで言われている。花見の有名スポットではウソによる食害は重大な問題らしく、様々な対策がすでに試みられている。 希釈した殺虫剤を撒く、ロケット花火を飛ばす、ラジオを鳴らす、猛禽類の鳴き声を流す、野鳥の警戒音を流す、磁石をつける、目玉模様の風船をつける、ゴム製のヘビを置く、忌避剤を撒く、ラゾーミサイルを定期的に打ち上げる、鳥よけのテープを貼る…など、調べてみれば、本当にたくさんの試みがなされていることがわかった。弘前公園では鷹匠が鷹を連れてきて、桜の上方をパトロールさせるなどということも行われたとか。 日本人は桜が大好きなのだ。それはウソの美しい外見などよりも比べようもないくらい大好きなのだろう。別の地味な植物のつぼみを食っていればいいものを、桜を食うという人間の大多数を敵に回すような所業によって、美しいウソは害鳥扱いされることとなってしまった。 きれいなウソは見たいが、桜も見たい。 ウソは冬場の命をつなぐためにつぼみを食い、桜は次の世代へつなぐ実を作るために花をつける。だが、生き死にとは関係のないところで、人間は都合の良いことを考えている。 |
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