2015年11月
|
脚が赤くなったヘラクヌギカメムシ♂ |
落葉の始まった雑木林のコナラの幹で何頭もの緑色のカメムシを見つけた。お尻でつながっているペアもある。体色こそ緑色だが、その6本の脚は鮮やかなオレンジ色となっていた。クヌギカメムシの仲間だ。 背面から見ただけでは種名まで判らないので、1頭をつかまえて、横から見たり、ひっくり返してルーペで見たりしたところ、それはヘラクヌギカメムシだった。 ところで、夏の頃見かけたクヌギカメムシの仲間は、もっと緑色が鮮やかだった記憶がある。この季節、コナラの幹に集っているカメムシたちは、気のせいか全体的に黄色味が増しているように見える。間違いなく違うのは脚の色である。夏に見るクヌギカメムシの仲間の脚はみんな黄緑色をしていて、赤っぽいのは見たことがない。まわりの雑木林の紅葉に合わせるかのように、クヌギカメムシたちも黄色味、赤味を増しているようだ。 これはどんな理由によるのだろうか。 植物の紅葉のメカニズムは大体判っている。 通常、植物の葉は緑色だが、それは光合成色素であるクロロフィルの色である。寒くなるとクロロフィルは分解され、葉から無くなっていくので、緑色は消えていくことになる。それに対して、黄色のキサントフィルなどの色素は分解されず残るため、葉は黄色く色づいたようになっていく。さらに、葉の細胞の液胞の中に赤い色素のアントシアンがたまるようになると、葉は赤へと変わる−。と、少し調べればあちこちにそんな記述を見つけることができる。もっとも、何のために色を変えるのかという根本的な理由については、統一された定説はいまだに無いようだが。 一方、カメムシたちの変色は…? これがどこを探してもそのしくみについて述べているものが見つからない。クヌギカメムシの仲間だけではなく、チャバネアオカメムシやツノカメムシの仲間も季節によって色が変わることが知られているのだが、「色が変わる」という記述はあっても、それがどんな原因で、何のために、ということについて書かれているものはついに見つからなかった。唯一、チャバネアオカメムシについて、日照時間が体色に関係するようだと結論づけた論文が見つかったが、それについても、どんな理由で、どんなメカニズムで、ということにまでは触れられていない。 カメムシというと臭いがまず頭に浮かぶが、その体色は鮮やかなものがたくさんいて、緑、赤、黄、オレンジ…、と色彩豊かなデザインのものをよく見る。だが、残念なことに多くのカメムシは死んでしまうと、見る影もなくその鮮やかな色彩は失われ、茶色っぽい姿へと変わってしまうのだ。カメムシの鮮やかな色は生きている証のようでもある。鮮やかな色を保つためにはエネルギーが必要ということなのだろうか。 生物の中には、繁殖期になると、婚姻色と呼ばれる特別な目立つ色に変わるものたちがいる。オイカワ、ウグイ、アユなどの淡水魚ではよく見かける現象だ。だが、昆虫の婚姻色はあまり聞いたことがない。成虫の期間が短い昆虫にとって、成虫の姿=繁殖期と置き換えても差し支えないように思えるから、色というよりも、その形そのものが“婚姻色”の代わりをしているといえるのかもしれない。 ただ、クヌギカメムシが成虫の姿になるのは夏のこと。そして交尾期は晩秋から冬にかけてという。成虫になってすぐに交尾という蝶達と違って、クヌギカメムシたちは成虫になってから交尾期まで少し間がある。とすれば、クヌギカメムシの鮮やかな赤い脚への変色は交尾期になったことをアピールする婚姻色と考えることもできなくはない。その一方では、秋が深まると緑色から茶色に変化し、越冬の体勢に入るカメムシの仲間もいる。カメムシの世界でも生き様はいろいろだ。 しばしの眠りにつこうとしている冬色のカメムシたちに、そして、秋の雑木林の陽だまりに繁殖のために集う秋色のカメムシたちに、そのそれぞれの理由を尋ねてみたいものである。 |
TOPへ戻る |
扉へ戻る |