2015年10月
榛名山西麓の水辺



声はかわいいシュレーゲルアオガエル  



 榛名山麓の周囲では天候の安定した10月の中旬は稲刈りの最盛期のようだ。榛名山の南を流れる烏川に沿った田圃では刈った稲が束になって乾され、いつもの風景が今年も見られている。
 今年始めて田圃に挑戦したという近所のNさんのところでも、ついに稲刈りにまでたどり着いたとか。大昔、田植えも稲刈りも機械を使わずやったことがあるという連れ合いは血が騒ぐらしく、そんなNさんの稲刈りの様子を見学に出かけて行った。
 一方、榛名山の山麓の裾野にあたるような場所では休耕田がいくつも目につくようになった。
 山麓の土地は水はけのよい火山性の堆積物で、おまけに傾斜のある地面なので、もともと水田はそれほど多くはなかったようだが、それでも棚田状にいくつもの水田が作られていた。ところが、気がつけばそんなところがいつの間にか休耕田と化しているのだった。早いうちから放棄されてしまった所では、すでに木が育ちつつあるような場所となって、林と見分けがつきにくくなってしまっているような場所さえ存在している。
 稲作農家の高齢化、1970年から続く減反政策(安倍内閣は2018年終了を表明しているが…)、追い打ちをかけるように2011年の原発事故による放射性物質の汚染…。そして、今年のTTP合意は弥生時代から続いてきたであろう日本の稲作にとどめを刺そうとでもいうようである。

 生物の中には水がなければ生きていけないものたちも多い。
 カエルやサンショウウオなどの両生類は、成体のときこそ陸上で暮らすが、幼生時代は水中で過ごし、卵は必ず水中に産む。爬虫類や鳥類のような殻を持たない卵は陸上ではすぐに乾燥してしまい孵化することは不可能なのだ。
 今や両生類は有尾目(サンショウウオ目)と無尾目(カエル目)と無足目(アシナシイモリ目)の3群しか存在していない。しばらく前に、ツボカビ病によってカエルが絶滅するのではないか、という騒ぎがあったが、それだけではなく、水中と陸上という2つの環境が必要な彼らにとって、生息場所の確保は重大な問題となっているようだ。原因は不明のままだが、両生類の減少は20世紀の後半から地球規模で急速に進んでいることが学者たちから指摘されている。
 同じようにトンボの仲間も水中に卵を産む。トンボの幼虫であるヤゴはエラ呼吸をしてその幼虫時代を過ごすから、水の無い環境は考えられない。
 カゲロウ、カワゲラ、トビケラ、ヘビトンボ…。水中でその幼虫時代を過ごし、成虫となって空を舞う昆虫たちも多い。ゲンジボタルやヘイケボタルもそのスタイルだ。ミズカマキリ、タイコウチ、タガメなどの水中のカメムシたちも…。数え上げたらきりがない。
 水辺は多くの生物たちをはぐくむ特別な環境なのである。そんな生物たちに、季節的ではあるけれど、水田は水辺の環境を提供してきた。
 しかし、今、里山の水辺は干上がりつつあるようだ。
 水を入れなくなった田圃は、雑草が生い茂り、やがて灌木が生え、林へと遷移していく。ヒトの手によって保たれてきた里山の水辺は、ヒトがいなくなったとき、消えるしかない。
 水辺の生き物たちはどこへ行ったらいいのだろう。





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