2014年8月
トビイロツノゼミ



 ツノゼミという昆虫のグループがある。「セミ」と付くがセミとは少し違う。セミの親戚といったところだろうか。半翅目(カメムシ目)ツノゼミ科の一群で、世界では3200種、日本では16種が確認されているという。
 ツノゼミは背中に奇妙な突起物を付けた昆虫で、そのユニークな姿はテレビで紹介されたり、ネットでも画像がたくさん公開されている。ドラえもんの「タケコプター」がついたようなヨツコブツノゼミ、自分の体よりも大きな装飾を付けているミカヅキツノゼミ、まるでバラのトゲのように見えるバラトゲツノゼミ…。その装飾は実用性があるようには思えず、過剰進化の果ての姿ではないか、と言われてしまう始末である。今もその存在理由については謎のままなのだとか。
 もっとも、そんな奇抜な姿をしたツノゼミは日本のものではなく、多くは南米の熱帯・亜熱帯に生息しているという。その南米では未だ未記載の種が多いようで、種類は3200種よりももっと多いのは間違いないだろう。
 南米の奇抜なツノゼミを見てしまうと、図鑑などで見る日本のツノゼミはかなり見劣りがしてしまう。最大のチャームポイントのはずのツノが地味なのだ。
 しかし、地味とはいえ、日本にいるツノゼミの仲間では、その名も「ツノゼミ Orthobelus flavipes 」は小さいながらも先の尖った小さな角を持っている。ツノゼミ科の近縁のトゲアワフキ科というグループのタケウチトゲアワフキ(Machaerota takeuchii )やミミズク科のミミズク(Ledra auditura )などはツノゼミよりも立派な角を持っている。ただ、ミミズクの体長は20mm弱だが、他は10mmにも満たない小さな体で、見つけようとしてもそう簡単に見つかるようなものではない。

 
 この夏、そのツノゼミのひとつを榛名山のオンマ谷で偶然に見つけることができた。ツノゼミの近縁のアワフキムシの仲間を撮影していたときのことである。
 アワフキムシも半翅目のメンバーで、小さいながら「セミの仲間だ」と言われれば納得してしまうような姿をしている。正確にはこちらも“セミの親戚”程度の近さではある。
 オンマ谷ではテングアワフキという頭部が尖った特徴的なアワフキや、赤茶色のコガシラアワフキ、翅に白いストライプの入ったシロオビアワフキなど数種類を見つけることができて、すっかり目がアワフキモードに入っていた。
そんなときに、さらにひとまわり小さいアワフキのようなものが眼に入ってきたのだった。アワフキモードの眼だからこそ発見できた一匹といえる。アワフキは体長10mm前後の大きさだが、これは5〜6mmくらいの大きさでしかない。近づいてルーペでも使って見なければその姿は詳しくはわからないのだが、顔を近づければピョン!とどこかへ飛んで行ってしまうに決まっている。そんなわけで、ゆっくりと近づいてデジカメで接写して、モニターでその画像を拡大してみると、それまで撮影したアワフキとは少し違って、背中(前胸背)の一部が盛り上がった形となっているのが見えた。これはもしかして、ツノゼミの仲間か…?
 自宅に帰ってから、さっそく撮影したものを調べてみると、それは予想通りツノゼミの一種で、トビイロツノゼミ(Machaenotypus sibiricus)という種だったのだ。図鑑によれば、「最も普通のツノゼミ」とある。
 日本の最も普通のツノゼミの“角”は、先も尖らず、とても“角”とは言い難いものだが、かろうじてツノゼミ一族の特徴を保っているといったところだろうか。それでも、あの奇抜なツノゼミの仲間を見ることができた、という小さな満足感を与えてくれる存在ではあった。


   

テングアワフキ
Philagra albinotata




コガシラアワフキ
Euscartopsis assimilis




トビイロツノゼミ
Machaerotypus sibiricus





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