2014年8月
伐採地のキツネ



草むらの向こうから顔をのぞかせたキツネ


 キツネの巣らしい穴を見つけたのは今年の1月のことだった。榛名山麓にローム層を見つけに出かけたときのことである。
 そこは何年か前に伐採された場所で、今は廃道と化している作業道が斜面を切って、小さな崖ができていた。それはまさに探していたローム層の露頭で、きれいな黄色い軽石層も見えていた。そこに直径15〜20cmほどの横穴が開いていたのだ。
 横穴は奥深くへと続いていて、ヒトが掘れるようなものではなく、体が穴に入り込めるような小動物の仕業としか考えられなかった。こんな穴を掘るとしたらキツネかアナグマといったところだろう。そこに主の姿はなく、確たる証拠もなかったが、なんとなくアナグマではなくキツネのような気がしていた。

 この穴の近くに住んでいる人、そして別荘を持っている人から「キツネを見た」という話を何度か聞いたのは梅雨から夏にかけてのこと。地図で見てみると、いずれも穴の所から半径500m以内の場所である。榛名山麓では、タヌキを見たとか、イノシシを見たというのはそう珍しいことではないのだが、キツネが目撃されるのはそんなに多いことではない。無人カメラには写ってくるから、いないわけではないのだが、警戒心が強いのか、それほど簡単に人前には現れてこないものである。だからこそ、タヌキやイノシシを見てもそんなにも話題にならないのに、キツネを見たとなれば話のネタになったりもするのだろう。
 穴の近くでの複数の目撃例からして、どうやらやはりあの巣ではキツネが子育てをしていると考えてよさそうである。

 夏のある日。その巣穴はどうなったことだろうと思って、様子を見に出かけてみた。
近くを通っている道に駐車して、その廃道の入り口を眺めてみると、以前にも増して夏草が茂って、侵入を拒むような様相になっていた。巣穴のところまで行くには藪こぎ必至の状況である。
 すると、その藪の向こうでガサッと何かが動いて、赤茶色の何かが廃道の奥へと消えていった。あれは… キツネ!?
 自動車から降りて、その廃道の入り口の夏草の前に立って、何者かが消えて行ったヤブの奥を眺めてみると、茂みの中に隠れたその赤茶色の獣が顔をのぞかせた。
 やはりキツネだった。
 一度逃げたにもかかわらず、こちらの様子を見るためにそっと戻ってきたようだった。茂みの間から顔だけをのぞかせ、こちらをじっと見ているその瞳と目があった。精悍な顔つきは飼われている犬や猫とは異質なものである。その様相からすると、オスの成獣だろうか。
 キツネの出産は春。そして、夏まで子育てをして、家族で暮らすという。あの草の間から顔を覗かせているキツネの向こうにはおそらく彼(?)の家族がいるのだろう。季節からすると、あと少しで子別れの時期である。
 しばらくして、キツネは後を振り返り、サッとヤブの奥へと消えて行った。
 まだもう少しの間、この廃道の先は彼らの聖地のようである。








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