2014年7月
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登り窯の小屋は相変わらずアリジゴクのコロニー状態で、人間がそのあたりを歩き回って巣の形がかき消されてしまっても、しばらくすると、巣は元通りの現状復帰をしてしまう。運悪く踏みつぶされて圧死してしまったものもいるのかもしれないが、少々歩き回ったくらいでは、彼らに大きなダメージはあまりなさそうだ。 巣を掘り返して1匹を捕まえて、その仕事ぶりを見せてもらうことにした。 少し大きめのどんぶりに登り窯のところにあった土を入れて、そこへアリジゴクを落としてみると、運悪く?仰向けの状態で転がってしまった。すると、やはりこの類の生物の常套手段で“死んだふり”を決め込んで、ピクリとも動かない。突っついてみてもなすがままである。 ところがしばらくして、“死んだふり”が見破られていると判断したのか、あるとき急に、目にもとまらぬような速さで、くるっと身を反転させたのである。あの怪獣のような姿からは想像もできない目を疑うような素早さだ。 すると、姿はすっかり保護色となって、そこにいるのがわかっていても、なかなか見分けがつかない程である。そして、それまでの“死んだふり”作戦を撤回して、どんどんと後へ後へと後ずさりしていく。そう、アリジゴクは前には進めず、後退あるのみなのだ。 だが、後ずさりしながら、お尻から土の中に潜っていくのかと思いきや、そうでもない。半身を土中に隠したところで、またしても行動中断。身を隠したと思ったのだろうか。しばらく見ていたが、動きは期待できそうになかった。半分諦めて、別のことをしながらときどきどんぶりの中のアリジゴクを眺めたが、その日、やはりもうそれ以上の変化は無かった。 ところが、驚いたのは翌朝である。何か変化はあったかと、アリジゴクの様子を見に行くと、そのどんぶりの周囲に激しく泥が飛び散っていたのである。アリジゴクの仕業に違いない。アリジゴクは大アゴを使って砂を放り投げて巣を掘るのだが、おそらくそうやって力持ちのアリジゴクは場外にまで砂粒を投げ捨てたのだ。だが、期待してどんぶりの中をのぞき込んだが、そこにはすり鉢状の巣は無かった。その代わりにあったのは、土の表面に残されたアリジゴクの動きまわった跡。アリジゴクはトラップのすり鉢状の穴を掘らずに、どんぶりの中の土の表面を砂粒を飛ばしながらずっと這っていたのだ。 それは見覚えのある這い跡だった。アリジゴクのコロニーがある登り窯小屋の土の表面には、ときどきそんな這い跡が無数にあることがある。窯焚きの後、竹ぼうきで窯の周囲をきれいに掃き清めてその這い跡がかき消されても、翌日にはまた同じような這い跡が作られているのだった。これまで、それは謎の生物の這い跡として何度も話題に上がることがあった。だが、何か得体のしれないものが窯場にいる、ということは確実なのだが、その正体は不明のままで、すぐ近くにあるアリジゴクの巣とは全く結びついていなかったのである。 思わぬところで、窯場の謎の生物の正体が判明した。アリジゴクはいつもすり鉢状のトラップの底に潜んでいるもの、と思い込んでいたのだが、実は意外に活動的な一面を持っているようだ。 獲物を待ち伏せする場所選びは彼らにとって死活問題だから、しばらく待っていて、その場所がダメなようならさっさと場所を変えるのか。それとも、成長に応じて居場所を変えるのか。思わぬところで謎の這い跡の生物の正体は解き明かされたが、その引っ越しの理由は定かではない。 |
登り窯周辺に残された這い跡
近くにはすりばち状のアリジゴクの巣があった
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