2014年6月

カメムシ注意報発令中!



チャバネアオカメムシ  
2014.6.22. 東吾妻町萩生



 個人的にはそんなことはないのだが、一般的にカメムシは嫌われ者である。あの臭いが最大の原因だろうということは想像に難くない。それゆえ、たくさんの別称をもらっている。「クサムシ」「屁こき虫」「ヘッピリ」「クサンボ」「ヘクサクン」… 調べたら相当な数にのぼることだろう。職場のある埼玉北部では「ワクサ」で通っている。
 ただ、カメムシの名誉のために付け加えておくと、カメムシも危険を感じたときにあの臭いを発するのであって、いつも臭っているわけではない。それでも、臭いの物質は強烈なようで、密閉された場所では、仲間、あるいは自分の発した臭い物質のために自らが死んでしまうこともあるというから、ただのいやな臭いではすまされないともいえる。
 しかし、そんな臭い以上に農作物への被害は農家にとっては重大な問題である。

 職場にあった2014年6月11日の埼玉新聞に「県、カメムシ大量発生で注意報発令 餌求めナシに飛来」の記事が載っているのを見つけた。
 記事によれば、このカメムシとはチャバネアオカメムシとのこと。チャバネアオカメムシは果樹が好みで、果汁を吸われた果物は商品にならなくなってしまうということで、埼玉県病害虫防除所が警戒を呼びかけているというのだ。
 そういえば、新聞が「カメムシ注意報」を伝える以前、埼玉県本庄市の職場でも夜になると、緑色のカメムシが網戸にたくさん張り付き、ときには室内にまで侵入していることがよくあった。昆虫にはあまり関心のないような人が「カメムシがたくさんいる」と言っていたくらいだから、よほど目についたのだろう。
 そのときは、よく種類も確かめず、それだけで終わってしまったのだが、後から調べてみると、まさにそれがチャバネアオカメムシだった。
 埼玉県に先立って、茨城、千葉、栃木、東京でも同様のカメムシ注意報が発令されているようだ。そして、群馬県でも、“注意報”ではないが、群馬県農業技術センターからすでに5月26日づけで病害虫情報第1号として「チャバネアオカメムシの発生に注意してください」という情報が出されていた。
 これらの情報では、昨年度はスギ・ヒノキの花粉が多く、チャバネアオカメムシのエサとなるスギ・ヒノキの球果が多くできたため、たくさんの個体が発生したと推定し、また、この冬の越冬量の調査によって、実際に越冬個体が多かったということが確認されたという。そして、今年のスギ・ヒノキの花粉は少なかったため、エサとなる球果はたくさんはできず、大量に発生しているカメムシのエサが不足すると考えられ、カメムシたちはエサをもとめて、通常のスギ・ヒノキ以外に、ナシ、リンゴ、モモ、ウメ等の果実へと飛んでいくだろうという分析をしている。
 そして、6月のある日、ついに榛名山麓でもチャバネアオカメムシを発見した。
 緑色のカメムシは今までに、アオクサカメムシあるいはミナミアオカメムシなど見かけたことがあったが、このカメムシを見たのは初めてである。大発生するくらいだから、それほど珍しい種というわけではなく、単に、見逃していただけなのだろうが「チャバネアオカメムシ」として認識したことはこれまでなかった。
 これは、大発生の予兆なのだろうか。
 
 全国農村教育協会発行の友国雅章監修「日本原色カメムシ図鑑」によれば、このチャバネアオカメムシはかつて、紀伊半島をはじめとする西日本では繰り返し大発生をしてきたという。それは1970年代から始まって、1992年には和歌山県上富田町で推計で10アールあたり約500万頭という途方もない数のチャバネアオカメムシの密度に達したとある。 東日本では、これほどの爆発的な大発生は無いようだが、年によって増減があって、「カメムシ注意報」が発令されたのも今回が最初ではない。
 和歌山県の大発生のときには、ブラックライトを点灯させ、カメムシを集めて駆除する方法がとられたようだが、あまりに集まりすぎて、駆除しきれず、その周囲にかえって被害を出してしまったということも報告されている。異常発生したカメムシは現在のところ人間の力の及ぶところではない。
 カメムシの仲間には「集合フェロモン」というフェロモンを出す種類があることがわかっている。チャバネアオカメムシもそのタイプで、越冬のときにはこの集合フェロモンを出して仲間を集め、集団で越冬にはいるのだとか。大発生したときに、この集合フェロモンを出されたら、恐ろしいことになりそうである。
 
 生物の異常大発生は、単純化された生態系のもたらした結果のひとつなのかもしれない。
 複雑な生態系は、懐が深い。いろいろなもの達がいて、複雑に絡み合った生態系であったなら、ひとつの生物だけが爆発的に突出して発生することはあまりない。
 人間の都合だけでスギ・ヒノキの林をどんどん作り、農薬を使って昆虫たちをコントロールしているつもりだったのが、いつの間にか、花粉症に悩まされ、特定の生物の極端な大発生をまねき、自然に対してヒトはもはやコントロール不能の状態に陥っているようだ。その規模が大きくなればなるほどコントロールすることは難しい。そもそも、自然をコントロールしようなどということ自体が不遜な考えだったのだろう。
 それでも、いまだに原子力さえコントロールできると思っているヒトもいるようだから、ヒトという種を含めて、自然というものはますますコントロールするのは難しいもののように思えてくる。









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