2014年6月

スイズラ



スイカズラ  2014.6.16. 榛名山西麓


 梅雨の晴れ間の山麓を歩いていると、不意に甘い匂いに出会った。匂いにはそれほど敏感ではないはずなのだが、その香りは確実に脳にまで伝わってきていた。横を見るとその発信源が目の高さにあって、見慣れた花がこちらを向いている。スイカズラだ。低木にからみついた蔓から白や黄色の花を付けている。花びらは上下に分かれ、下の花びらは長い舌を出したように垂れ下がり、上の花びらは4つに分かれて反り返っている。その間からは細長い雄しべと雌しべを突き出している。強烈な甘い香りで昆虫たちを誘い、彼らがやって来たところで、花粉をつけてやろうというわけである。蔓の1カ所からは2つの花が出ていて、実が熟す頃には2つの黒い実が並んで付いているのを見かけるものだ。
 梅雨の頃、林の周囲ではたくさんのスイカズラの花を見ることができる。たくさんの太陽の光を必要とする植物らしく、陽当たりの良い所でよく見かける。樹木に絡みついて、その樹木の葉をさらに覆い隠すように葉を広げている。自分の葉にあたるはずの日光を奪われてしまうのだから絡みつかれた方はいい迷惑かもしれない。。
 林の周囲の陽当たりの良い場所で、林を覆うようにして生えるこんな植物たちはマント群落やソデ群落と呼ばれている。
 ソデ群落の植物は林のまわりを取り囲む草木で、ときには雑草として片づけられてしまうような存在である。また、マント群落の植物の多くは蔓であったり、トゲが生えていたりして、林の中へ入ろうとするものを阻止するかのような様子をしている。「マント」の意味するところは「外套・オーバーコート」である。その様子は一見すると荒れた林のように見えてしまうことが多い。
 しかし、これも林にとっては重要なものなのだとか。マント植物やソデ植物たちは侵入者を拒むだけではなく、吹き込んでくる風を防ぎ、林の中から水分が出て行くのを防ぎ、土壌が流出していくのを防いだりしているのである。こんな植物がそこにいることで、林の中の環境は一定に保たれているのだ。
 そんなマント植物の中にあって、このスイカズラは甘い香りと、その優雅な花の姿でこの季節、林を彩ってくれる貴重な植物といえる。好感度ランキングというのがあるとすれば、トゲや蔓が多いマント植物の中では上位になるに違いない。園芸品種として改良されているのもあるくらいなのだから。
 香りが甘いだけではなく、実際にその蜜も甘いという。「スイカズラ」は「吸い葛」なのである。試しに白い花を1つとって吸ってみたが、いまひとつ甘い味ははっきりしなかった。…それでは、黄色い花では、と思ってやってみたがやはり味はよくわからない。味音痴はこんなとき悲しい。
 英名は「ハニーサックル・honeysuckle 」。こんな名前のカクテルもあるらしいが、その中身はラムとレモンと蜂蜜なのだそうだ。飲んだことはないが、やはり甘いのだろう。
 ところが、日本では好感を持ってとらえられているであろうこの植物も、所変わればそんなわけにも行かない。
 原産地は日本そして東アジアなのだが、多くの植物がそうであるように、この植物も人間という生物の働きによって、大きくその分布域を拡大させている一種である。ヨーロッパやアメリカに渡ったスイカズラは野生化し、外来種として問題となっているのだとか。
 日本にやってきた帰化植物はその姿が美しくても、やはりその事実を知っている人にはそう好感は持たれない。同じように、美しく甘い香りのスイカズラも、欧米では日本でのセイタカアワダチソウのような扱いを受けているのかもしれない。






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