2014年4月

コツバメ



2014.4.14. 東吾妻町萩生

 春の陽気の雑木林の縁を茶色い小さな蝶がすばやいスピードで飛んで行くのが見えた。 のんびりしたミヤマセセリよりもずっと直線的に、ひらひら舞うのではなく、脇目もふらずとでもいうような様子である。近くにはヤマトシジミに似たスギタニルリシジミが飛び交っていたが、色も飛び方も一見して違う。
 眼で追っていって、止まった場所を確認する。コツバメである。ピタッと閉じた翅の裏側は茶色の地にこげ茶色のラインを白で縁取ったような模様が複雑についていて、上品な様子を醸し出している。名前には「シジミ」が付かないがシジミチョウの仲間である。だが、大きさこそシジミチョウクラスだが他のシジミチョウとはちょっと雰囲気が違う。その飛び方も素早く、名前の「ツバメ」は伊達ではない。
 コツバメも見る機会が少ない蝶である。それはこの蝶が成虫でいる期間が短いことにも関係している。サナギで越冬した個体は早春に羽化し、春の間だけ姿を見せて、卵を産み終えるとその姿をもう見ることはできない。ミヤマセセリやギフチョウなどと同じスプリング・エフェメラルの蝶なのだ。とはいえ、その生息域も狭くなっているようで、見る機会が少ないのはそのライフサイクルのためばかりではないようだが。
 コツバメは気をつけて見ていると、毎年この時期に見つけることができる。見つける場所もほぼ決まっていて、毎年そろそろ見られるかな、と思って探すと目に入ってくるといった具合だ。ただ、素早く飛ぶ小さな茶色い蝶なので、注意していないといても気がつかないことが多い。
 コツバメが毎年出現するとすれば、そのあたりに食草があるに違いないと思うのだが、未だにそれを突き止められないでいる。コツバメの食草としてまず挙げられるのはアセビだが、このあたりにアセビはない。他のツツジ科の植物も食草とするというから、畑に植えてあるブルーベリーはどうだろうか。あるいは、バラ科の植物も食草とすることもあるというから、近くにあるブラックベリーは…?
 調べていくと、コツバメが食草とした植物の事例は意外と多いことがわかった。ただ、食べるのは葉ではなく、花やつぼみなのだが。
 蝶の姿となったコツバメは、その食草となる植物がいつ花をつけるのかを予測して卵を産みつけるのだろうか。花の時期に幼虫になれなければ、食べるものがなく成長することもできない。コツバメがスプリング・エフェメラルである理由は、1年に1度しか咲かない植物の花を食草としてしまったことによるのだろう。
 コツバメの出没地点のあたりの植物も新しい芽を出し、日々の変化は目を見張るようなものがある。コツバメはこの変化をどう読んで、いつ、どこに卵を産んでいるのだろうか。
 今年も謎は解けないままコツバメの季節はまもなく終わろうとしている。



大きくなったフキノトウにとまったコツバメ
2014.4.16. 東吾妻町萩生

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