2014年4月

巣 箱



新しい巣箱にコケを運びこむシジュウカラ


 ある朝のこと。郵便受け兼新聞受けとなっているポストから朝刊を取り出そうと開けると、新聞がコケまみれになっていた。おまけに、囓られたのか、数カ所がちぎられたような状況である。この様子は、シジュウカラかヤマガラがここを巣と決めて、コケを運び始めたと考えるのが自然だ。
 ポストは手作りの木製。巣箱にしてはちょっと大きいが、かつて、これ以上の大きさの30cm四方の大きな箱に巣を作ろうとしていたこともあるから、鳥にとって大きすぎるというわけではなかったのだろう。だが、致命的なことに、これはポストなので、鳥の出入り口はない。新聞が突っ込まれたときに途中で引っかかっていれば、隙間ができてそこから出入りすることができるようになるが、通常は前も後ももちろん横も鳥が自由に出入りできるような場所はないのだ。ポストの中に運び込まれていたコケは、新聞が配達されてから新聞を取るまでのわずかな間の仕事だったに違いない。どうして、こんなものを巣として選んでしまったのだろうか。

 この時期、鳥たちは忙しい。冬の間どうにか命をつないで、暖かくなったこれからの季節は子育ての季節になる。冬の間餌台に集っていたシジュウカラ、ヤマガラ、コガラ達はみんなパートナーを作って、どこかにマイホームを構えるはずなのだ。冬の餌台に集まっていた鳥の数を考えると、その巣は相当な数になりそうである。
 ポストを鳥に提供してやるわけにはいかないので、手近にあった板を使って巣箱を作り、ポストの近くのヤマグワの木にかけてやると、一日も経たないうちにシジュウカラがコケをくわえて運び込むようになった。ポストを使おうとしたのが彼らなのかどうかは不明だが…。
 
 さらに数日後、物置の中から出てきた板を使って巣箱をもう一つ。今度は花が散り始めたコブシにつけてみることにした。すっかり慣れてきたもので、作り始めてから設置するまで1時間ほどで完了である。
 作業を終えて一息ついているとき、ふとそのかけたばかりの巣箱を見ると、小さな丸い入り口に足をかけて中をのぞき込んでいるヤマガラの姿が目に入った。設置してから30分は経っていない。おそらく20分といったところだろう。
 しばらくの間、入り口の小さな穴にぶら下がったような形で喋るように鳴きながら中をのぞいていたが、しばらくして、ついに中に入ってしまった。はたして、気に入ったのだろうか。
 そしてさらに2日後、もう一つの新しい巣箱を薪小屋の後のクリの木に設置。すると、程なくしてやはりヤマガラが数日前と同じような格好で穴に足をかけてのぞき込んでいるのが見えた。こいつは、もしかして、同じヤマガラではないのだろうか…?
 鳥にも個性があって、同じ種類の鳥でも臆病なものから好奇心旺盛なものまでいろいろなものがいる。もちろん、鳥の種類によってその警戒の度合いには一定の傾向はあるのだが、その中での個体差によるばらつきは少なくない。それはエサ台にやってくる鳥たちを見ているとよく感じる。ヤマガラは比較的警戒心は薄い方で、エサ台の近くでは手の上からヒマワリの種をくわえて持って行くようなのもいるのだが、今年の冬、そんなヤマガラは1羽だけだったように思えた。
 巣箱を設置するたびにすぐにやってきて出来具合をチェックしていくヤマガラは、この手のりのヤマガラのような気がしてならない。彼(彼女?)はマイホームを構えるつもりでチェックをしているのか、それとも単なる好奇心あるいは冷やかしなのか…。

 結局、家の周囲にはフクロウ用の巣箱をのぞいて合計8個の巣箱がかけられたことになった。最終的に、たいていはどの巣箱にも鳥が入って巣を作るのだが、誰がどの巣箱に入るのかがどうやって決まるのかはわからない。先着順?それともやはり強いのが優先?
 早々にやって来たヤマガラがこの巣箱を使えるのか、それとも別のちゃっかり者が横取りするのか、ちょっと見物である。


新しい巣箱の中をのぞきこむヤマガラ

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