2014年3月

ミヤマホオジロ


 “今年は雪が少ない−”
 2月のはじめの頃、そんな話をしていたら、それが天に聞こえたかのように2週間に渡って大雪が降った。最初の2月8日の大雪が「記録的な大雪」だったとすれば、次週の大雪は「歴史的な大雪」。関東・甲信にかけて何日も雪に閉ざされて孤立するような地区ができ、榛名山麓でもそんな場所があった。それまで黒い地面が見え隠れしていた山麓も、2月中旬からはすっかりと雪国のようになっていた。


雪の上を歩くミヤマホオジロ(♂)

 雪が降ると決まって庭に現れる鳥がいる。ミヤマホオジロである。
冬の間は雪がないときも林のどこかにいるのだろうが、地面に雪がないときにはあまり目につかない。ところが、雑木林が白く雪に覆われるようになると、どこからかやってきて、庭先の雪の上をせわしなく歩きまわるようになるのだ。
 姿はホオジロやカシラダカと似ているが、冠羽の一部に黄色い部分があって、その違いはひと目でわかる。
 榛名山麓に来る前、ミヤマホオジロもなかなか出会えない鳥のひとつだった。だから、以前はミヤマホオジロの珍しさのランクはちょっと高い位置にあったのだが、今、ここではそう珍しいものではない。冬鳥として渡ってくる冬の時期に限っては、ホオジロとミヤマホオジロの出現率は同じくらいだろう。それでも、その鶏冠のような冠羽に黄色の色を見つけると、少し得をしたような気持ちになる。
 ミヤマホオジロに限らず、雪が降ると、小鳥たちは人のいるところへ集まってくる傾向がある。すべてが雪に覆われてしまうと、普段は探し出せる餌も全く見つからなくなるのだろう。軒下のエサ台に集まってくるシジュウカラ、コガラ、ヤマガラの数も雪のときは一段と多くなる。
 だが、ミヤマホオジロがそのエサ台に載って食べる姿は今まで一度として見たことがない。ミヤマホオジロのお気に入りの場所はシソの立ち枯れのところだ。小さな畑の片すみで、茂るに任せてあったシソは実をつけ、そのままに立ち枯れていた。おそらく、多くの種は地面にこぼれ落ちて散らばったのだろう。雪のないときには、その下に落ちた実を食べに来ていたのかもしれない。そして雪が降って、地面が探せなくなったとき、まだ枝に少しは残っている実を食べにやって来ていた。ここへはよくカワラヒワも連れだってやって来ているから、たぶん、小鳥たちにとっての重要な食料調達ポイントなのだ。
 ところが、そのシソも2度目の「歴史的な大雪」ではすっかりと埋まってしまった。それまでなんとか餌にありついていた場所は、ほとんどの場所が雪の下になってしまった。
 そんな非常事態になって、ついにそれまでベランダに近づいてくることなどなかったミヤマホオジロが雪の上を歩いて近づいてくるようになった。入れかわり立ち替わりエサ台を訪れるシジュウカラやコガラやヤマガラの姿を遠くから見ていて、何事…?と思っていたのかもしれない。エサ台にはヒマワリの種だけではなく、ホオジロが好みそうな植物の小さな実も置いてあった。年によってはこのエサ台にホオジロが来て、じっくりと食事をしていくこともよくあったのだからミヤマホオジロが来て、食べていっても全く不思議ではない。
 エサ台にやってくるカラたちに比べて、ミヤマホオジロの警戒心は強い。近くまでやって来たミヤマホオジロをよく見ようと、家の中から窓越しでも動こうものなら、たちまちのうちに飛び去ってしまう。
 歴史的大雪からもうすぐ1ヶ月。やっと雪かきをした場所を中心として黒い地面がわずかずつ見えてくるようになった。だが、ミヤマホオジロのエサ探しは未だ困難な状況が続いているらしく、頻繁にベランダ周辺に出現している。ジワジワと時間をかけて、ようやく警戒心を解いたのはまだベランダの上まで。エサ台への道のりは遠い。
 ミヤマホオジロがエサ台にのるのが先か、それとも林から雪が消えるのが先か…?
 エサ台にのってほしい気もするが、野性味を失わず、このまま自立していて欲しい気持ちもある。“深山”の名前を戴くホオジロにはなれなれしく人間に迎合して欲しくない、などと野鳥にエサを出している自らの行動とは裏腹の勝手な気持ちもある。
 ミヤマホオジロが北へ帰るのはいつのことなのか。
 彼らはいつも、気がついたら庭にいて、そしていつの間にか姿を消していく。まるでいつの間にか冬がやって来て、いつの間にか春に変わっているかのようだ。
 カレンダーはすでに“春”だけれど、ミヤマホオジロがいる今、まだ冬の日々は続いている。






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