2014年2月

アオツヅラフジ




みずみずしく、美味しそうなアオツヅラフジの実
2013.11.7.   榛名山西麓


"干しブドウ"状態になったアオツヅラフジの実
2013.1.28.  榛名山西麓


 秋の頃、まるでヤマブドウのようにみずみずしい果肉をつけて、ツル先にぶら下がったアオツヅラフジの実は、すっかりと水分が抜け、今はまるで干ブドウのようになって寒風に吹かれている。
 その数は、実の表面に白い粉がつきパンパンに張っていたときと比べて、数える程しかない。秋の頃にはあちこちに美味しそうに垂れ下がっていたのに、今はすっかりと減ってしまっていた。
 有毒だというのに、鳥がついばんでいったのだろうか。それとも、有毒なのはヒトに対してのみで、鳥にとっては毒としての効果がないというのだろうか。
 アオツヅラフジに含まれる毒性分は、主としてアルカロイドの一種であるトリロビンやマグノフロリン、カルボン酸の一種のアリストロキア酸という物質であることがわかっていて、多量に体内に入れば、呼吸不全、心臓麻痺、腎機能障害という重大な結果になることがあるという。アリストロキア酸は、ウマノスズクサにも含まれ、ジャコウアゲハの幼虫がそれを食べることで、体内に毒を貯め、鳥から食べられるのを避けているということがわかっているから、鳥にとってもアリストロキア酸は苦手なはずである。
 まだ、この実が美味しそうに見えるころ、有毒であるとは知っていたのだが、試しに1粒だけ味を確かめてみたことがある。
 口の中に入った果汁はほんのりと甘かった。ウェブ上には、同じように試してみた他の人の感想があったが、「渋かった」とか「エグかった」というものが多かった。これは、普通の果実でも熟す前に食べてみれば、渋かったり、エグかったり、酸っぱかったりするのと同じだろう。しっかりと熟したアオツヅラフジの実は甘いのである。
 アオツヅラフジの実が甘いということは、やはり食べてもらいたいということなのだろうか。強烈な毒で知られるドクウツギも鳥に食べてもらってその種子を散布するというから、アオツヅラフジの毒は鳥にとって、どうということはないのかもしれない。
 そして、鳥がジャコウアゲハの幼虫を食べないのは、ジャコウアゲハの幼虫が毒性分の含まれるウマノスズクサの葉を食べて、その毒性分を体内に濃縮するからだろうか。ジャコウアゲハの幼虫には、ウマノスズクサの葉よりもはるかに濃い毒性分・アリストロキア酸がためこまれているのかもしれない。
 植物にとって果肉は種子をどこかに運んでいってもらうために食べてもらう部分のはずである。当然、種子まで消化されてしまったのでは全く意味がなくなってしまう。そのため果肉は柔らかくジューシーでも、その中の種子はとても硬く、鳥の体内でも消化されないようになっている。
 アオツヅラフジの果肉を取り去ってみると、中から出てくるのは小さなアンモナイトのような形をした種子だ。直径は約5mm。よく見れば、アンモナイトのように巻いているわけではなく、小さなコガネムシの幼虫が丸まっているようにも見える。だが、その硬い質感からして、アンモナイトの殻がピッタリくる。実の中に隠れていたアンモナイト!
 種子の形は、丸や紡錘形、あるいはそれがつぶれた形など単純なものが多いけれど、ときとして、複雑なとてもおもしろい形になることがあるのだ。以前見たカラスウリの赤い実の中にあったのは小さな「打ち出の小槌」だった。
 何のためにそんな形になるのか。生物は思わぬところに個性を隠し持っているものである。そして、そんなものを自然の中で発見したとき、わけもなく得をした気分になる。


 アオツヅラフジの実の中に隠れている種子

 方眼紙の1目盛りは1mm





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