2014年10月
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光があるところには、影ができる。その光は強ければ強いほど、その影のコントラストも強く、作り出された影はより深くなる。 水素の核融合反応で輝く太陽の強烈な光。日中、青空にある太陽は眩しすぎて直視することすらできない。 その光が作り出す巨大な影−。 2014年10月8日、地球の影の中に月が入り込むという現象が起こった。皆既月食である。雲の切れ間からではあったが、地球の大気を屈折して通過していった赤い光に浮かび上がった幻想的な月の姿を地球の影の中に見ることができた。 この日、地球と太陽の距離は0.999天文単位。1天文単位は地球と太陽の平均距離だから、秋分の日をわずかに過ぎたばかりの太陽は平均的な位置よりも少し地球に近いところにあった。この距離をなじみ深いkmという単位で表すとおよそ149448272kmという数字になる。一方、地球と月の距離は365680km。光が約1秒で届くような距離である。これは、地球と月の距離が1cmのモデルを作ったとしたら、地球と太陽の間は4m9cmとなるような比率である。この比率で太陽・地球・月が一直線に並んだのだった。 また、太陽の半径は696000km。地球の半径(極方向)は6357kmである。地球の直径が1cmだったとすれば、太陽の直径は1m9cmの大きさになる。太陽の直径の中には地球が109個も並べられる。仮に地球が太陽の表面にあったとしても大きめの黒点があるくらいにしか見えないはずだ。 その地球が作り出す影。それは地球の断面が投影されたものになる。ほぼ平行な太陽光線が投影する地球の影は、地球のすぐ裏では地球の断面とほとんど変わらない大きさのはずだ。ところが、太陽は地球よりもはるかに大きい、ということを先に書いた。視直径でも約32′もある。このため地球の影を作り出す光源は点ではなく面積を持つことになる。太陽面の端から出る光と真ん中から出る光が地球に進んでくる方向はわずかに異なってくる。図に書いてみればすぐにわかることなのだが、地球の影は地球から離れるに従って次第に小さくなっていく。計算してみると、この日の月の位置での影の大きさはおよそ半径4675kmの円になる。面積にして68626663km2 。これは見かけ上、満月のおよそ9倍にもなる。小さくなるとはいえ、月の位置ではまだまだ大きい。 この日はたまたまそこに月が入り込んだので、地球の影の存在がわかったのだけれど、地球の影はいつも太陽と反対側の夜空のどこかにある。この影がなくなるのは地球がなくなるときか、太陽が光を失うときだ。 その影の存在は月食のとき以外でも気がつくことがある。 晴れた日の日暮れ間もなく、あるいは明け方の空を注意深く見ていると、動く光る点を見つけることができる。人工衛星である。とくに月のない暗夜の明け方には数多くの人工衛星が目撃できる。この人工衛星は自ら光っているわけではなく、太陽の光を反射して輝いているにすぎない。その人工衛星を目で追っていくと突然消えたり、あるいは光点が突然星空の中に出現するときがある。それはまさに、人工衛星が地球の影に消えたり、地球の影から日の当たる場所に出てきたときなのだ。 地球に寄り添うようにしてある巨大な影。 宇宙に浮かんだイクラのようになった月も幻想的ではあるけれど、そこにある地球の影もまた想像力を発揮すれば、壮大な光景として見えてくるようではないか。 |
皆既月食のこの日、望遠鏡・カメラ・電源のバッテリーetc、万全の撮影準備をして、職場へ行ったのだが、なんとも間抜けなことに、撮影直前になってカメラにSDカードが入っていないことが判明。月食はなんとか見えたが、画像は1枚も残らなかった。 |
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